2.培養肝細胞を用いたミトコンドリア毒性評価の際の問題点とその克服法

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抄録

安全性が問題で市販後撤退した薬物のうち肝障害は約4割を占める1)。薬物性肝障害(drug-induced liver injury: DILI)は、中毒性と特異体質性に分けられる。中毒性DILIはアセトアミノフェンに代表されるように投与量依存性で動物での再現も可能である。メカニズムも比較的解明が進んでおり、非臨床段階で毒性が検出できるチャンスもある。一方、特異体質性DILIはメカニズム不明なため非臨床における動物試験での再現は困難で、また発症頻度も極めて低いため人数の限られた通常の臨床試験では検出は困難とされる。開発コストの観点から、非臨床のなるべく早い段階で特異体質性DILIリスクを判定できる方法論の確立が求められている2)。毒性予測の分野ではAdverse Outcome Pathwayの考えが一般的で、薬物投与から毒性発現までのメカニズムが明快に説明されているものも中にはある。一方で特異体質性DILIは先に述べたように稀にしか発症しないこと、原因薬物の薬効群や化学構造も極めて多岐に渡り毒性ターゲットが単一に絞りにくいことなどから、発症の分子経路も非常に複雑であると予想される。筆者を含め多くのDILI研究者は、複数メカニズムの重複によって特異体質性DILIが生じると考え、mechanism integrated prediction(MIP)3)に基づいたDILIリスク薬物の予測法構築を目指している。MIPではまず、何らかのDILIとの関連が想定されるin vitro試験系を複数用意し(必ずしも臨床DILIとの関連が証明されてなくてもよい)、臨床でのDILIリスクが分かっている薬物セットを並べて評価する。次に、これら試験結果を統合することにより臨床DILIリスクの大小を精度よく判別するためのアルゴリズム(回帰式のようなもの)が構築される。既に海外の大手製薬企業の安全性グループからは、MIPに則ったDILIリスク薬物判別のための具体的な試験系セットと判別アルゴリズムが提唱されている4-7)。筆者らもこれまで、DILIのMIPを目指し、DILIの背景に重要と思われるin vitro評価系の構築に取り組んできた。これには、胆汁酸依存毒性8)、ミトコンドリア毒性9,10)、毛細胆管ネットワークの形成抑制11)についての試験系が含まれる。本稿ではこのうちミトコンドリア毒性、中でも特に、呼吸鎖阻害に基づく肝細胞死を鋭敏に捉えるための試験系構築に関して紹介する9,12)

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  • CRID
    1390010842618370304
  • DOI
    10.50971/tanigaku.2019.21_85
  • ISSN
    24365114
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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