アレクサンダー・ツェムリンスキー《6つの歌曲》作品22の楽譜調査 : 演奏と校訂譜作成に向けて

書誌事項

タイトル別名
  • A Survey of Scores of Alexander Zemlinsky’s 6 Lieder, Op. 22 : Toward the Preparation of Performance and a Revised Score
  • アレクサンダー ・ ツェムリンスキー 《 6ツ ノ カキョク 》 サクヒン 22 ノ ガクフ チョウサ : エンソウ ト コウテイ フ サクセイ ニ ムケテ

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抄録

本研究ノートは、アレクサンダー・ツェムリンスキーAlexander Zemlinsky(1871-1942)作曲《6つの歌曲6 Lieder》作品22(1934)の新たな校訂譜作成に向けた基礎研究として、自筆譜と出版譜の情報を提示し、両者の相違点を挙げ、初演に関する情報を確認する。作品22を演奏・解釈する一助となることを目的としている。作品22の自筆譜は、アメリカ議会図書館のAlexander von Zemlinsky Collectionに収蔵されている。それらの調査からは、浄書譜の第6曲〈私の魂の海の上をAuf dem Meere meiner Seele〉が破られ、〈背中の曲がった小人Das bucklichte Männlein〉に置き替えられていたことが判明した。〈私の魂の海の上を〉と〈背中の曲がった小人〉に書かれた、曲順を表す「6.」の筆跡は同じであることから、この置き換えはツェムリンスキー本人によるものだと考えられた。ツェムリンスキーがピアノを務めた作品22の全曲初演においても、6曲目に演奏されたのは〈背中の曲がった小人〉であった。作品22は、ツェムリンスキーがナチスの影響を目に見える形で受けてから最初に作曲した作品で、生前には出版が叶わなかった。1977年にモバート・ミュージック社Mobart Music Publicationsからの出版に至ったのは、作曲家の妻ルイーゼLuise Zemlinsky(1900-92)の働きがあったためと推測された。出版譜の第6曲は〈私の魂の海の上を〉である。表紙には「6つの歌曲 作品22と作品番号無しの2つの歌曲Six Songs Op. 22 and Two Songs (without opus number)」と記載され、作品22と近い時期に作曲された2曲(うち1曲が〈背中の曲がった小人〉)が併せて収録されている。作品22の浄書譜の表紙に書かれた「6 Lieder」は鉛筆で2本の線が引かれた上、右隣りに「8 Lieder」と書かれていることから、「ツェムリンスキーは8曲すべてをまとめて出版することを考えていたようだ」と先行研究においても述べられている。しかし「8 Lieder」の筆跡は、ツェムリンスキーの筆跡と一致しないことが判明した。したがって8曲をまとめて出版することは、作曲家が意図していなかった可能性がある。また出版譜は、基本的には自筆の浄書譜に忠実に従う姿勢であるものの、演奏に影響する浄書譜との相違点も多数含んでいた。それらは表で示した。今後はツェムリンスキーがどちらの曲を終曲として意図していたのか、それともどちらも認めていたのかを探るべく、作曲動機について考察を進めるとともに、両パターンにおける楽曲間の音楽的・テクスト的連関からツィクルス性の検討を行いたい。また〈ベアトリーチェの予感〉は、作品22の7曲とともに収めるのが適切であるのかの考察も行いたい。更に収録曲と収録順も検討した上で、自筆譜を基に新たな校訂譜を作成したい。

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