弟子の楽譜に書き込まれた弧線から見るショパンの音楽様式 : カミーユ・デュボワ=オメアラの楽譜の調査を通して

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タイトル別名
  • Chopin’s Music Style from a Viewpoint of Arc Notes to the Scores of his Pupils : An Investigation into the Scores of Camille Dubois, née O’Meara
  • デシ ノ ガクフ ニ カキコマレタ コセン カラ ミル ショパン ノ オンガク ヨウシキ : カミーユ ・ デュボワ=オメアラ ノ ガクフ ノ チョウサ オ トオシテ

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抄録

近年、フリデリク・ショパンFryderyk Chopin(1810~1849)に関する資料研究が進み、今世紀になってから新たな原典版楽譜全集が何種類も出版され始めた。それらの楽譜の校訂報告書にはショパンの弟子達の楽譜が基礎資料として挙げられており、弟子の楽譜への書き込みがショパンの音楽を読み解くための大きな鍵となることが分かってきた。しかし、前述した原典版楽譜には、そうした情報はまだ僅かしか反映しておらず、この分野の研究はまだ余り進んでいないことも分かった。そこで、本研究はショパンの弟子であったカミーユ・デュボワ=オメアラCamille Dubois, née O’Meara(1828~1907、以下「デュボワ夫人」)の楽譜を研究対象とし、そこに残された「弧線」の書き込みを検討することにより、ショパンの音楽様式を明らかにしていくことを目的とする。本研究では、先ずデュボワ夫人の全ての楽譜を調査し、弧線の書き込みのある曲(曲の番号、楽章)、書き込みのある箇所、書き込みの種類、予想される意図等を一覧表に纏めた。その結果、弧線は主にスラー、タイ、縦型の弧線からなっていることが分かった。それらを基に、書き込みが行われた経緯にまで遡り、ショパンの音楽様式を具体的に考察した。その結果、本研究で次のことが明らかになった。先ず、ショパンはスラーを1音あるいは1つの和音や重音に書き込むことがあり、この方法を製版用自筆譜でも用いていた。これはスラー本来の結合線という概念を逸脱するものであるが、この方法によってスラーが記された音の響きを引き延ばすような効果を求めていたことが分かった。タイについては時期の異なる複数の自筆譜や出版の経緯などの資料学的な方法を取り入れて検討したところ、ショパンがタイを用いるかどうかで迷っていたことが分かった。タイは音の予備の際に用いられるため、対位法等の作曲理論に基づく検討も必要になるが、この点については今後の課題とした。縦型の弧線はアルペッジョを示すものであり、ショパンはこれを通常の和音や重音の前のみでなく、最上音に上方隣接音からなる前打音を伴った和音や重音の前にも書き込んでいた。この種類の書き込みの数が多いことから、ショパンがこの奏法を多用していたことも分かった。今後は、他の種類の書き込みの調査・研究を行うと共に、他の弟子の楽譜にも視野を広げていくつもりである。そうした研究結果を重ね合わせることによって、ショパン研究に幅と深さが生まれるであろう。

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