亜ヒ酸による血管内皮細胞および血管平滑筋細胞の凝固系亢進とその分子機構
書誌事項
- タイトル別名
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- Molecular mechanism for arsenite-mediated dysfunction of blood-coagulation systems in human vascular endothelial cells and smooth muscle cells
抄録
<p>【目的】慢性的なヒ素曝露は,動脈硬化症などの血管病変発症リスクを増加させることが知られているが,その発症機構には不明な点が多く残されている。動脈硬化症の発生要因の一つとして血液凝固・線溶系の破綻があげられる。これまでに我々は,亜ヒ酸が転写因子Nrf2の活性化を介して,組織型プラスミノーゲンアクチベーターの産生放出を阻害することにより血管内皮細胞の線溶活性を低下させることを報告している。本研究では,血管内皮細胞が産生する抗凝固作用を示すトロンボモデュリン(TM),血管平滑筋細胞が産生する外因系凝固反応の開始因子である組織因子(TF)および組織因子経路インヒビター(TFPI)の発現に亜ヒ酸が与える影響とその分子機構を検討した。</p><p>【方法】ヒト血管内皮細胞株EA.hy926細胞およびヒト大動脈平滑筋細胞を亜ヒ酸で処理した。タンパク質量はウエスタンブロット法で,遺伝子発現量はリアルタイムPCR法で測定した。また,リポフェクション法でsiRNAを導入し,Nrf2ノックダウン細胞を作製し各実験に供した。</p><p>【結果・考察】血管内皮細胞において,亜ヒ酸はTMのmRNA量およびタンパク質量を低下させることが確認された。この亜ヒ酸によるTM発現抑制効果は,Nrf2をノックダウンすることにより回復した。また亜ヒ酸は,血管平滑筋細胞においてTFのmRNA量並びにタンパク質量を増加させた。このTFの発現増加もNrf2をノックダウンすることにより抑制された。一方,亜ヒ酸は血管内皮細胞のTFおよびTFPI,血管平滑筋細胞のTMおよびTFPIの発現にはほとんど影響を与えなかった。以上の結果より,亜ヒ酸はNrf2経路の活性化を介して,血管内皮細胞のTM発現抑制および血管平滑筋細胞のTF発現増加を引き起こすことを通じて血液凝固反応を促進し,結果として血栓形成が促される可能性が考えられる。</p>
収録刊行物
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- 日本毒性学会学術年会
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日本毒性学会学術年会 49.1 (0), P-10E-, 2022
日本毒性学会