<i>mā ... bhaiṣṭa / bhāyatha</i>

  • 笠松 直
    Associate Professor, National Institute of Technology, Sendai College, Hirose, PhD

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タイトル別名
  • <i>mā ... bhaiṣṭa</i> /<i> bhāyatha</i>
  • ma ... bhaista / bhayatha

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抄録

<p> 梵文『法華経』VII章に以下の如くある:KN 188,2 bhavanto bhaiṣṭa mā nivartadhvam 「諸君,[君たちは]恐れてはいけない.引き返してはいけない(= WT 166,16-17)」.ここでKN本はbhay / bhīにアオリスト語幹による禁止法を用いている.他方,カシュガル本並行箇所182a2は bhavantaḥ satvā bhāyatha ...と読み,現在語幹から作る.この際,いずれの読みが好ましいであろうか.</p><p> ヴェーダ期には語根アオリストに基づく2 sg. inj. bhaisのほか,sアオリストに基づく2 sg. bhaiṣīsがあり.その2 pl. に相当するmā bhaiṣṭaはMahāBhārataにも存する.永く用いられた正統的な語形である.しかし仏教混交梵語文献がこの活用形を用いていたとは考え難い.</p><p> パーリ文献に見られるアオリスト語形2 sg. bhāyi, 2 pl. bhāyitthaは現在形bhāya-tiから二次的に形成されたものであろう.Mahāvastuでもこのbhāya-ti活用が一般的で,禁止法には現在語幹のmā bhāyatha等を用いる.恐らく原『法華経』も同様の言語状況にあり,韻文部分(Saddhp I 82c及びVII 99b)のみならず散文部分でも一貫してmā ... bhāyathaと読んだものであろう.こうした読みを保持する中央アジア写本群の資料的価値は大きい.</p><p> 一部写本が示す異読も上述の結論を支持すると考えられる.例えばギルギットA本91,25 bhaiṣṭaに対する河口慧海将来貝葉写本73a3 kāyadhvaṃは明らかに現在語幹の+bhāyadhvamを示唆する.中動相へ改変されているものの,この読みはより原型に近い,中期インド語的語形を伝えるものと見做せるであろう.</p>

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参考文献 (1)*注記

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