ものの生滅には何瞬間必要か?――『菩薩地解説』の見解――

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タイトル別名
  • How Long Do Impermanent Things Last?Momentariness in the <i>*Bodhisattvabhūmivyākhyā</i>
  • How Long Do Impermanent Things Last? : Momentariness in the Bodhisattvabhumivyakhya

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抄録

<p> 仏教は,諸行無常を根本教義のひとつとするが,特にアビダルマの時代になると,無常を時間の最小単位にまで分析し,無常性を成立させる基底として,瞬間的に生じて滅するという刹那滅の概念を生み出した.ただし,刹那滅をどのような仕組みで理解するかは学派によって異なり,例えば,説一切有部は,生・住・異・滅という四つの有為相が実体として働き,一瞬間のあいだにものを生じさせ,とどまらせ,変化させ,消滅させることによって,ものが瞬間的に生滅すると理解する.一方,瑜伽行派の根本典籍『瑜伽師地論』は,「菩薩地」において菩薩の無常観察を扱うなかで,説一切有部と同様に四つの有為相を用いた刹那滅説を展開するが,それら有為相を作用ある実体と見ることを否定する.さらに,先行研究に拠れば,「菩薩地」は,一瞬間目にものが生じ,とどまり,変化し,二瞬間目に消滅する,つまり二瞬間毎の生滅を説いているとされる.ただし,もし「菩薩地」の刹那滅説がこのようであるとすると,一瞬間毎の生滅を想定する『瑜伽師地論』の他の箇所と相違し,「菩薩地」に限って一瞬間毎の生滅を認めていないことになる.そこで,本稿では「菩薩地」全体に対する唯一の注釈書である海雲著『菩薩地解説』を扱い,『菩薩地解説』は「菩薩地」の刹那滅説を二瞬間に亘るものではなく,一瞬間毎に起こるものと理解していることを示し,その見解の妥当性を検証することを通して先行研究の理解を再考した.その結果,『菩薩地解説』が世親著『阿毘達磨倶舎論』に説かれる有為相の議論を参照していた可能性のあること,そして,先行研究とは異なり,少なくともインドの伝統においては,「菩薩地」の刹那滅説が内容的に異質なものとしては理解されていなかったことが明らかとなった.</p>

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