地域調査単元の実践に係る学習手法“ミステリー”の可能性

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タイトル別名
  • Possibility of learning method "Mystery" to class of field survey unit

抄録

<p>1.学習手法“ミステリー”の可能性と限界</p><p> 学習手法“ミステリー”とは,複数の登場人物が関わるかみ合わない複数のストーリーをバラバラにカード化し,カードを物理的に並べることで再構築することを通して,“謎”を解き,課題を解決したり,場合によってはそのほかの資料も読み込みながらストーリーの過去や未来を想定したり課題を解決しようとしたりするものである。1990年代後半にイギリスで生まれ,オランダを経由してドイツで発展を遂げた。</p><p> 例えば,イギリスの事例としてのLeat(1999)では,「なぜヴィッキーの車はロックされたか?」というオープンな(定まった答えのない)人文的事象に係る問いと,約30枚の個人の行動を中心に断片的に述べた短文からなるデータスリップと呼ばれるカード,補足資料としての新聞記事が載っている。</p><p>課題(オープンな問い)を紹介→活動(グループ全員でカードを読み込み、机上に物理的に並べる)→課題の答えを示す→活動を評価する</p><p> どちらかというと,人文地理学的な視点で,社会システムを構築するようなデータスリップ=カードがつくられているといえる。</p><p> 一方,ドイツの事例としてのHaß(2012)では,データスリップ=カードにはそれぞれ表題がついており,タイトルに沿った事象の説明と図表・写真等が比較的詳細に載っている。カードの枚数も20枚程度と少なめだ。またオープンな問いも,「なぜサハラ砂漠にはクロコダイルがいるか?」といった自然事象に係る問いであり,カードの内容もそれを補足するような自然地理学あるいは地球物理学的な視点でつくられている。</p><p>準備(カード等を用意する)→(生徒をグループに分ける)→課題(オープンな問い)を紹介→活動(グループ全員でカードを読み込み、関連づけしながら机上に物理的に並べる、)→課題の答えを示す(複数の異なる答えを比較する)→活動の内容やカードのつながりを振り返る(メタ認知)</p><p> どちらかというと,自然地理学・地球物理学的な視点で,自然システムとそれに係わる社会システムの要素からカードがつくられ,グループや個人の活動の振り返り(メタ認知)を重視している。</p><p> さて,前述の二者はカードのつくり方や問いを立てる視点は異なるものの,カードを物理的に配置することで,課題=問い=“謎”を解くという学習手法であることには大きく変わりはない。そして,課題=問いを“謎”に見立てることで,生徒の課題への関心や学習への意欲をかき立てることができ,さらにカードの配置が,生徒の課題に対する思考や,生徒がグループワークにより組み立てた自然/社会のシステムを可視化できるのが利点である。</p><p> 一方で学習手法“ミステリー”には限界もある。イギリス型の短文のデータスリップ(カード)ならば30枚を短時間で読んで配置することも可能だろうが,ドイツ型の情報が詰まったカードを20枚以上用意すれば,1時間の授業で関連づけを含めた配置をさせるには限界がある。しかしカードの枚数を削れば,問いに対する答えの多様性が狭められ,また教員の望む答えを誘導しかねない。</p><p></p><p>2.学習手法“ミステリー”を地域調査単元に生かすには</p><p> 地域調査単元,特にフィールドワークを含む調査を行うことは,コロナ禍も影響して一層困難となった。加えて高校で「地理総合」が必修化されたことによって,地域調査の経験に乏しい教員が地理教育に携わる可能性が増え,地域調査の実施難度が上がったといえよう。しかし,そのような状況下だからこそ,学習手法“ミステリー”を地域調査単元に生かしやすいと考える。</p><p> それは,教員も生徒も必ずかかわる学校周辺地域をフィールドとして,「なぜ,勤務校がここに開校したか」という問い=謎を設定でき,その問いに沿って学校に保存されている資料や,学校周辺のことがらを調べて断片的にカード化するだけで,教材がつくれるからだ。ドイツ型のカード作成方法に近い。素材が集まってくれば,問い=謎に対する答えとなるストーリーもできてくる。そこで,素材を経済/社会/環境に大まかに分類し,欠けている分野の素材を探すことで,さらにストーリーに複雑さが生まれ,生徒に取り組ませたときの問い=謎に対する答えの多様性も生まれてくる。なにより,所属する学校に対する問いは,生徒の意欲や関心を最もかき立てやすい上に,グループワークでカードを並べることで,生徒の視点を生かして地域を構造化し,その特徴を俯瞰できる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390012169713386880
  • DOI
    10.14866/ajg.2022a.0_140
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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