霊長類比較解剖学から考えるヒト背側肩帯筋の形態学的特徴とその系統発生

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  • Morphology and its phylogeny of human dorsal shoulder girdle muscles based on the comparative anatomy of the primates

抄録

<p>直立二足歩行のヒトの肩甲骨は,大部分は筋によって体幹に引きつけられる。一方で,四足歩行の哺乳類では,左右の肩甲骨の間に体幹が吊り下げられる。したがって,これらの機能を果たす背側肩帯筋(肩甲挙筋LS,前鋸筋SA,菱形筋Rh)の形態には,種ごとの姿勢や運動の特徴に応じた違いがあると考えられる。本研究では,霊長類間で背側肩帯筋の筋構築と神経支配を比較し,ヒトの直立姿勢の適応に伴う背側肩帯筋の特徴と系統発生を考察した。対象は,チンパンジー1側,カニクイザル2側,フランソワルトン3側,リスザル4側,アカテタマリン3側,エリマキキツネザル2側,ポト2側とした。3筋の筋構築は,ヒト型(LS:上位4頸椎から起始しSAと独立,Rh:下位頸椎〜上位胸椎棘突起から起始)とカニクイザル型(LS:下位頸椎から起こる筋束がありSAと連続,Rh:頸胸椎に加え頭部筋束あり),および中間型に分類された。ヒト型はチンパンジー,カニクイザル型はフランソワルトンとエリマキキツネザルであった。リスザル,アカテタマリンはLS起始がヒト型よりも下位の頸椎に及ぶが,LSとSAが独立しているため中間型とした。ポトではLS・SAが連続しカニクイザル型と一致するが,Rh頭部筋束が見られないため中間型に分類した。これらの結果から,ヒト背側肩帯筋の形態はLS下部筋束とRh頭部筋束の消失によって特徴付けられることがわかる。哺乳類のLS下部筋束は肩甲骨を尾側方向へ回旋させ,上肢を後方へ引く。一方でヒトLSの作用は,肩甲骨の至適肢位の保持とされる。直立姿勢のヒトでは,上肢の運動は前方または側方への挙上が主であり,肩甲骨の動きは頭側方向への回旋が主体となる。したがって,ヒトではLS下部筋束が消失すると考えられる。また神経支配では,LS下部筋束を持つ種ではLS下部にはC5由来の神経が支配するが,LS下部を持たない種ではC5はSA上部筋束を支配する。よって,ヒト・チンパンジーのLS下部筋束はSA上部筋束へ移行したと解釈できる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390012191593605760
  • DOI
    10.14907/primate.38.0_19
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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