インドリ科における甘味受容体の機能多様性
書誌事項
- タイトル別名
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- Functional diversity of sweet taste receptors in Indriids
説明
<p>味覚は摂食の際に食物の栄養価や有毒性を評価する重要な感覚である。味は基本五味(甘味、旨味、苦味、酸味、塩味)に分類され、舌や口蓋に発現する各味質に対応した味覚受容体を介して知覚される。そのため、個々の動物はその食性や生息環境に応じて味覚受容体を進化・適応させてきたと考えられている。中でも甘味は炭水化物の指標であり、ほとんどの霊長類が嗜好性を示す味質である。しかし、近年の研究で葉食性のコロブス類はスクロースなどの天然の糖類に対する嗜好性が弱く、甘味受容体(T1R2/T1R3)の糖感受性が著しく低下していることが明らかになった。そこで、本研究では、この現象が葉を主食とする霊長類系統に共通する味覚特性なのかを明らかにするため、コロブス類と系統的に遠縁な葉食性曲鼻猿類のインドリ科(Propithecus属、Indri属、Avahi属)を対象に甘味受容体の糖感受性を細胞アッセイによって分析した。受容体の機能評価には、スクロースなどの天然糖類に加えて、人工甘味料やDアミノ酸を使用した。2属はスクロースに応答が見られた一方で、Indri属とAvahi属は、一部の人工甘味料には応答するものの、天然糖類には全く応答が見られなかった。従って、葉食性霊長類では、遠縁な系統間で平行的に甘味受容体の糖感受性低下が起こっていることが示唆された。また、糖感受性に寄与する受容体部位を探索するために、属間で一部の受容体領域を入れ替えたキメラ変異体の解析を実施した。本発表では、インドリ科における甘味受容体の機能進化を考察するとともに、インドリ科の食性と甘味受容体の糖感受性の関連を議論する。</p>
収録刊行物
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- 霊長類研究 Supplement
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霊長類研究 Supplement 38 (0), 81-, 2022
日本霊長類学会