人工股関節全置換術に坐骨神経障害を合併した症例~入院期間中の回復経過および理学療法~

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抄録

<p>【はじめに】</p><p>人工股関節全置換術(以下、THA)に合併する末梢神経障害は1%程度とされており、その回復過程や理学療法についての報告は少ない。今回、THA に坐骨神経障害を合併した症例を担当する機会を得た。入院期間中に行ったさまざまな対応について報告をする。</p><p>【症例提示】</p><p>60 歳代女性。左変形性股関節症に対するTHA(後方アプローチ)施行。梨状筋及び上双子筋は温存、内閉鎖筋、下双子筋の下半分と大腿方形筋の上部のみ切離している。術者より、脱臼と整復の操作の過程で坐骨神経障害がおこったものと考えられるとの事であった。</p><p>感覚機能は表在感覚で、健側を10 として下腿外側後面の腓骨神経領域が0、足背~足底外側が3、異常感覚は無かった。疼痛は、大腿部後面から下腿外側後面・足底の坐骨神経領域全般に自発痛、下肢下垂時の疼痛増強、坐骨神経伸長時痛を認めた。</p><p>筋機能はMMT にて、腸腰筋2,大殿筋2、中殿筋3、大腿四頭筋4、大腿二頭筋0、半腱様筋・半膜様筋2、前脛骨筋0、長母指・長趾伸筋0、長・短腓骨筋0、長母指屈筋2、長趾屈筋2 であった。</p><p>【経過および理学療法】</p><p>感覚機能は近位から徐々に改善し、退院時点では表在感覚が健側の8 ~9 まで改善したが、浅腓骨神経領域の異常感覚が残存した。疼痛は、近位から徐々に改善し、退院時点では下腿後面遠位と3 ~4 趾足尖のみとなった。また、坐骨神経伸長時痛に対し、坐骨神経へのストレスがかからないような動作指導を行った。</p><p>筋機能について、膝屈曲運動は大腿二頭筋収縮が認められず、それに対して半腱様筋・半膜様筋のみの収縮であったため同筋の収縮時痛がみられた。経過とともに大腿二頭筋の筋収縮の改善がみられMMT3 まで回復したが、歩行時に大腿二頭筋優位の遊脚パターンへ移行してしまったため、半腱様筋・半膜様筋を意識した膝屈曲運動を再指導した。</p><p>足関節・足部筋機能については筋力低下が著明であったため、低負荷で足底からの感覚入力を目的として、足底を使用した床のタオル掛け運動を行った。退院時点でも、足関節・足部筋はMMT0 ~2レベルであった。</p><p>歩行については、リーストラップを作成し、疼痛減少とともに、歩行車歩行から、杖歩行、独歩と徐々に歩行形態UPすることができた。また、脛骨上や前脛骨筋上の皮膚の柔軟性低下がみられ、底屈時に内反が自然と誘導されるため降段時などの内反捻挫が想起された。足関節周囲の軟部組織の固さのバランスを整え、底屈時に中間位が自然と誘導されるようにした。</p><p>靴下履きについてはTHA 後による禁忌肢位と下垂足のため、困難であった。自助具の使用も検討していたが、膝屈曲MMT が3 に回復したことで伏臥位膝屈曲によるパターンでの靴下履き動作が行えるようになった。</p><p>【考察】</p><p>THA 術後の股関節機能の低下に加えて坐骨神経障害があり、回復の経過に応じて皮膚・筋などの軟部組織の固さや筋のバランス・動作パターンの変化が起こり、それぞれに対応していく必要があった。末梢神経障害後は、一般的に感覚障害の回復が先行し、それに引き続き筋機能が回復してくるとされるが、本症例は、退院時点では感覚機能の回復が進んでおり、今後は筋機能の改善が起こっていくものと予想される。ただ、回復に要する期間は症例により数か月~数年と幅があるため、現時点のQOL も考慮した対応が必要であると考える。</p><p>【倫理的配慮、説明と同意】</p><p>症例報告につき、対象者に対する利益相反は発生しない。加えて、本報告について説明と同意を得ている。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390012777804280832
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2022.0_99
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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