SDGs・人口減少社会における出生と麻酔分娩 -社会デザイン学の視点から

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  • 菊地 栄
    立教大学大学院社会デザイン研究科 兼任講師

抄録

<p>出生が年々減少し続ける社会において出産/誕生は産科・周産期医療のみならず、領域を越えて議論しなければならない課題である。日本はコロナ禍で少子化が さらに加速し、今年の出生数は 80 万人を割ると予測されている。また産科では陽 性者以外でも帝王切開が増加し、麻酔分娩へのニーズが高まっていると言われてい る。こうした背景を踏まえ、産痛緩和と麻酔分娩のあり方について社会デザイン学 の視点から考えてみたい。</p><p>社会デザイン学とは学際的な視点で社会課題を見通し、市民にとってより良い社 会をデザインする(形づくる)方法を考察、提案する学問領域である。産科医療に ついては出生数が減少している社会を前提に、麻酔分娩は出生率の低下を食い止 めることができるのかという問いが立ち上がる。コロナ禍では出産立ち会いや面会 の禁止など、日本の産科医療体制は欧米に比べ母子への規制が厳しいと言われて いるが、麻酔分娩へのニーズの高まりは、孤独な分娩室でのリスクを軽減するため の女性たちの選択とも考えられる。少子化の要因は子育てしにくい社会状況が挙 げられているが、ジェンダーギャップ指数が 146 か国中116 位と先進国の中で最下 位であることや、妊産婦の主権のあり方は影響していないだろうか。出生率を回復 したフランスでは、麻酔分娩が全体の 70 ~ 80%、ジェンダーギャップ指数は 15 位、 子育て関連の国家予算は OECD の調査で日本の2倍以上ある。</p><p>次に環 境の 視 点から考察してみよう。国連 が 推し進めている SDGs は次 世 代、すなわち人類誕生の持続可能性を前提とした未来社会のための目標である。</p><p>「reproduction 再生産」は女性の身体に託されているが、女性の身体を自然環境と 見なすエコフェミニズムの考え方に照らせば、環境(身体)へテクノロジーを投入し て管理する従来の開発主義的な麻酔使用は見直す余地があるかもしれない。</p><p>私が訪れたフランスのパリ市内の病院では、出産の約7割が麻酔分娩だったが、 呼吸法で乗り切る自然出産や水中出産など、オルタナティブな選択肢も提示されて いた。ダイバーシティの社会ではさまざまな価値観が存在する。施設で麻酔分娩を 取り入れるか否か、という二者択一の議論ではなく、当事者の女性たちがさまざま な選択肢から選べる柔軟な環境を用意した上で、女性たちが自身で決められるよ うに出産準備教育で主権者意識を育てる。女性をエンパワーする産科医療の姿勢 が持続可能な出生につながるのではないだろうか。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390012932641894144
  • DOI
    10.34597/npc.2022.3.0_s2-2
  • ISSN
    24358460
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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