妊婦さんと漢方薬 〜基礎から応用まで〜

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  • 永松 健
    国際医療福祉大学成田病院産婦人科 教授

抄録

<p>女性の体は、妊娠に伴い大きく変化する。エストロゲンやプロゲステロンの性ホルモン以外にも、胎盤からは様々な調節因子が産生されて妊婦の全身臓器の 機能が胎児の発育に適した内部環境の確立へとシフトする。こうした妊娠中の変化は、生理学的、代謝栄養学的そして免疫学的視点から理解が進められてき た。そして、妊娠に対する身体の適応過程もしくは、妊娠終了後の復元の過程では、病的とは言えないまでも、いわゆるマイナートラブルと称される様々な症状が現れる。それらに対して、西洋薬の中で解決を試みる場合には胎児への影響へ の懸念から使用できる製剤の選択肢は決して広くはない。そのため、漢方薬の活用は妊娠期の症状改善のための選択肢を広げる有効な手段となる。漢方医 学において妊娠母体の特有の変化は養胎優先という概念で表現され、妊娠に伴 う証の変化として気血水が血虚、腎虚、水毒など、いずれも陰虚証タイプに偏移 するとされている。妊婦に漢方薬を使用する場合にはそうした妊娠に伴う証の変化に合わせた薬剤選択が重要となる。</p><p>さらに、マイナートラブルのみならず母児の予後に重篤な影響を与える周産期 疾患に対しても、予防的あるいは治療的な目的で漢方を利用する試みも行われ ている。免疫学的には、父親由来の抗原を有する胎児・胎盤に対して母体免疫 システムが受容的に反応することが健康な妊娠に重要とされている。そして不育 症、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群などでは、母児間免疫応答が破綻するこ とが発症の主要な要因となっている。当帰芍薬散に代表される安胎薬と呼ばれ る一連の漢方薬は、妊娠中の諸病を避け母児の健全な妊娠維持をサポートするとされてきた。しかし、その安胎作用の分子生物学的機序については未解明の 部分が多い。</p><p>本講演では、妊娠中の漢方薬の使用に際して必要な知識について整理する。 そして母児間の免疫応答異常の改善効果という視点から、当帰芍薬散が発揮す る安胎作用について近年の研究的な知見を示しながら、周産期疾患に対する漢 方療法の応用可能性について論じる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390012932641895040
  • DOI
    10.34597/npc.2022.3.0_sp-1
  • ISSN
    24358460
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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