抗悪性腫瘍薬の第一効能選択における企業行動に関する探索的研究

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  • 呉 サン
    東京大学大学院薬学系研究科 医薬品評価科学教室
  • 小野 俊介
    東京大学大学院薬学系研究科 医薬品評価科学教室

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抄録

<p>【目的】抗悪性腫瘍薬の開発において企業が最初に開発する効能(第一効能)は、他社・他品目との競合を踏まえた承認取得戦略、上市後の市場浸透、ライフサイクルマネジメントなどいくつかの観点に基づき選択・決定されると考えられる。本研究は、企業の第一効能選択がどのような背景因子と関係しているかを探索すること、及び、個々の企業の選択行動の違い(ばらつき)を種々の企業・品目特性とともに可視化することを目的とした。【方法】2002年以後米国で開発され、作用メカニズムが明確な新有効成分含有医薬品(抗悪性腫瘍薬)1166品目のうち、企業が開発した第一効能が特定可能な576品目を対象とし、企業の変数(開発時点の企業の売上規模、同領域の既承認薬剤有無、同領域の臨床試験実施経験、競合試験数)、癌腫の変数(開発成功率、5年生存率、年間罹患数)及び同じメカニズムにおける開発番手を収集した。選択モデルを用いて第一効能の選択と関係する因子を探索し、多重対応分析で包含的に企業の特性による選択行動の違いを可視化した。【結果】「観察された全癌腫を選択可能」と仮定したモデルでは、企業は、過去の開発経験が豊富な癌種、同じ領域で既承認薬剤を保有している癌種を第一効能として選択する確率が有意に高かった。薬剤の作用メカニズムから選択可能な癌腫を制限したモデルにおいてもこれと一貫した結果が得られた。企業にとって開発競争度が高い癌腫は第一効能として選択されにくい傾向があった。小企業は、大企業と比較して、一般的な予想成功率が高い癌腫を選択する確率が低かった。多重対応分析では、主軸(ビジネスとして成功する期待の度合い)と第二軸(新たな癌腫の開発度合い)で分布の67.6%を解釈できた。主軸においては、小企業と比べて大企業でより成功しそうな第一効能を選択する傾向が、第二軸においては、小企業が新しい領域の第一効能を選択する傾向が可視化された。【考察・結論】本研究により、先行研究よりも直接的に、企業がどの癌腫を第一効能として開発するかのメカニズム・背景を示すことができた。企業規模(資源の大きさ)により企業行動の違いが捉えられ、大企業が自社のケイパビリティを活かし、より高い薬剤価値に期待し、患者数が多く、競争が激しい領域へ参入する傾向があることが示唆された。</p>

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