フェムト・アト秒スケールの実時間第一原理計算

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抄録

本講義では、光を照射した物質中で起こる電子の超高速運動 —フェムト秒 (10−15s) からアト秒 (10−18s) の時間スケール— に関し、理論と計算科学の方法の発展を中心に紹介する。量子多体問題の教科書を開くと、系に一定振動数の外場を加えた振動数領域の応答に対し、時間に依存する摂動論を用いた記述が採用されている。これは、重ね合わせの原理が成り立つシュレディンガー方程式の線形性から自然なことである。 では、本講義で時間軸を用いた記述に転換する理由は何か。 まず先端の光科学実験で、アト秒 (10−18s) のパルスを用いた物質中の電子運動の測定など、時間領域の測定が台頭しており、時間軸の理論や計算が必要とされている。また振動数表示に比べ、時間軸を用いると物理現象に対し、はるかにわかりやすいイメージを持つことが可能になる。そして計算機の発展に伴い、アト秒からフェムト秒程度の時間スケールで起こる現象を第一原理レベルで計算することが可能となっている。 講義ではまず、電子の運動を記述する第一原理計算法として知られる時間依存密度汎関数理論を基礎として、原子や分子などの簡単な物理系を例にとり、線形・非線形光応答で現れる電子ダイナミクスを紹介する。続いて、固体(結晶)中の電子ダイナミクスの記述に進み、誘電率や電気伝導度などの線形応答関数が時間軸での電子ダイナミクスとどのように関連するのかを調べる。また最近高い興味を集めている高次高調波発生などの非線形光応答を論じる。最後に、物質中の光の伝搬を記述する巨視的・微視的電磁気学を、物質科学の第一原理計算から出発して構築する試みを紹介し、それがどのような現象の理解に繋がるのかを論じる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390013552702640640
  • DOI
    10.57393/natsugaku.1.0_1
  • ISSN
    27582159
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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