岩体成長およびマグマ上昇過程の野外地質学的・岩石学的アプローチ:牛斬山花崗閃緑岩の例

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  • Field geological and petrological approaches to the growth process and magma ascent process: the example of the Ushikiri-yama granodiorite body.

抄録

<p>花崗岩や閃緑岩などの深成岩体はマグマ溜まりの化石と称され(Wibe, 1994),マグマ溜まりの状態,その中でのマグマの挙動および深成作用(分化,同化および混合)の影響などマグマが固結するまでの様々な活動履歴を保存している.また,これらの情報はマグマがどのようにして形成,上昇または定置したのかというマグマの「空間問題」に対しても様々な知見を与えてくれる.最近ではアナログ実験(Kavanagh et al., 2006)や数値シミュレーション(Melkin et al., 2021)などラボスケールでの再現実験やデータ駆動型の検討が多くなっている.しかしながら,このような解析結果を野外地質や岩石の特徴または岩石の化学組成を用いた検討,特に岩体のマグマプロセスを反映した検討は少ない.そこで,本発表では詳細な野外調査から得られたマグマの流動データ(面構造,線構造),高密度サンプリングによる岩体規模の鉛直・平面化学組成変化および岩体固有のマグマプロセスを統合し,岩石学的なアプローチで岩体成長過程とマグマの上昇過程を明らかにする.また,再現実験や数値シミュレーションの解釈を検証し,適応することでより詳細な岩体成長過程を編む. 対象岩体の牛斬山花崗閃緑岩体が分布する北部九州花崗岩バソリスは17または18個の小規模岩体で構成される(大和田・亀井, 2010).この花崗岩バソリスの中で牛斬山岩体は他の花崗岩類と接しておらず独立した小規模岩体であるという特徴を持つ.この特徴は一つのマグマ溜まりの詳細や岩体の成長過程を考える上で大きなアドバンテージとなる.そして,牛斬山周辺の地質は,石灰岩・変成岩とそれらを貫く牛斬山花崗閃緑岩及び小規模な岩脈から構成され,牛斬山花崗閃緑岩は,牛斬山山頂部から東西に延びる細粒相を境に北部岩体と南部岩体に区分される.南部岩体は北部岩体とは異なり,母岩の捕獲岩,岩脈類の貫入および火成起源の緑簾石の存在が確認できる.一方で北部岩体は一部斑状を呈する花崗岩が存在する.また,牛斬山岩体全体では岩体の外形に沿うようなホルンブレンドと斜長石の定向配列による面構造(流理構造)と付随するドーム型の形状を示す線構造が発達する.一般にどちらも弱い構造であるが南部岩体と細粒相では多く確認できる.モード組成と全岩化学組成データは細粒相を境界に南北に2つの累帯組成変化を示し,この平面変化は岩体の面構造の形態と調和的である.さらに,南北両岩体の活動年代はホルンブレンドのK-Ar年代測定から南部岩体105.3 ± 3.2 Ma,北部岩体100.9 ± 2.9Maとされ,活動時期の少し異なる2つのマグマの上昇が考えられる. また,南部岩体のみに含まれる自形かつ火成起源の緑簾石の存在から南部岩体マグマは固結時の定置P-T条件よりも深い地下深部で一度マグマ溜まりを形成したことが予想され,そのことと調和的に北部岩体に比べ南部岩体のホルンブレンドのコアのAl含有量は高い.そして,南部岩体の母岩を捕獲岩として含む産状,北部岩体より肥沃な同位体組成および古いK-Ar年代値から,南部岩体マグマが先に母岩を捕獲または同化しながら上昇し,一度安定し再び上昇するというプロセスが編まれる.一方で,北部岩体は南部岩体と同じ火道(通路)を使用することで,Vent cleaning(Harris et al., 1999)が作用し,母岩との反応が抑えられたマグマとして上昇・定置したと考えられる.北部岩体には斑状組織を呈する岩石も産することから上昇速度も速かったと予想できる.また,牛斬山花崗閃緑岩体は変成岩とその上部の石灰岩との低角度境界部に貫入しており,牛斬山山頂部では変成岩のルーフが確認できる.このことはアナログ実験で検証された岩体(シル)の形成過程と類似する.加えて,両岩体に発達する面構造はマグマが供給口から半円状のローブとして流れ,塁重したものと解釈できる.これらのことから,マグマの上昇過程や成長過程の岩石学的な検討は1種類の事象や1種類のデータでは難しいが,岩体の分布条件や岩石の露出状況などを考慮し,複数個の岩石学的データを用いることで検討可能である. 【引用文献】Wiebe (1994) Jour. Geol., 102, 423–437. Harris et al. (1999) Jour. Petrol., 40, 1377–1397. Kavanaghet al. (2006) EPSL, 245, 799–813. 大和田・亀井 (2010) 日本地方地質誌8, 朝倉書店, 304–311. Melkin et al. (2021) JGR, Solid Earth, e2021JB023008.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014183333824512
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2022.0_337
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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