「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録が地域にもたらした変容

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タイトル別名
  • The transformation brought about by the World Heritage registration of the Jomon Prehistoric Sites in Northern Japan
  • From the perspective of “Organization of tourism”
  • 「観光の組織化」の観点から

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 発表者は「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録運動とその実現を「観光の組織化」の一形態ととらえ、地域構造の変容に及んだ影響を検討してきた。本発表においては、遺跡所在市町に実施したアンケートの結果に基づき、世界遺産登録が地域にもたらした変化について報告する。併せて、同じく「観光の組織化」としてとらえた東北・北海道新幹線の開業と、縄文遺跡群との関係性についても言及する。</p><p></p><p>2.北海道・北東北の縄文遺跡群</p><p> 「北海道・北東北の縄文遺跡群」は青森県と岩手県、秋田県、ならびに北海道に所在する17遺跡(構成資産)、およびそれに準じる価値を持つ2遺跡(関連資産)から成る。遺跡は年代が縄文時代草創期(紀元前約1 万3000年)から晩期(紀元前約400年)にわたり、いずれも特別史跡または史跡に指定されている。</p><p> 青森県は2001年ごろ、4 道県に所在する縄文時代の遺跡群の世界遺産登録を検討し始めた。一時、青森県単独での登録へ方針転換したが、2007年に再び4道県による登録へ方針を転換した。その後、2019年に世界遺産の推薦候補となり、2021年に登録が実現した。世界遺産登録は観光振興が目的ではないが、観光との関連は重視されている。登録運動開始から登録実現、活用へのプロセスは、プロモーションの状況からも「観光の組織化」と位置づけられる。 </p><p></p><p>3.4道県の市町アンケート </p><p> 世界遺産の登録運動とその実現が地域に起こした変化を確認するため、2021年10月、構成資産または関連資産を有する4 道県の全14市町にアンケートを実施した。青森県内の全6 市町と構成資産・御所野遺跡がある岩手県一戸町、参考資産・鷲ノ木遺跡がある北海道森町の計8 市町から回答を得た。</p><p> 各市町とも総合計画に遺跡の活用を重点的に明記しており、遺跡の存在が施設整備や組織整備の方針、つまりは将来的な地域構造の変化に影響を及ぼしていることを確認できた。また、行政内部や行政と民間の連携の強化に言及している市が複数あるほか、他の市町も、登録の前後における埋蔵文化財への住民の意識変化や、活動の活発化、シビックプライドの向上といったソフト面の変容を記載している。</p><p> 今後の対応については、多くの市町が遺跡とその周辺環境・施設の整備を予定している。大半の遺跡はバスや鉄道での到達自体が不可能であり、アクセス改善や道路の整備といった施策が喫緊の課題として挙げられている。同時に、ガイドの育成や組織の連携強化などソフト面の対応も課題となっている。 これらの課題の多くは観光と密接に関連しており、各市町の回答は、世界遺産登録への運動とその実現という「観光の組織化」のプロセスが、地域構造にもたらした多面的な変容を反映していると位置づけることができよう。 </p><p></p><p>4.縄文遺跡群と東北新幹線 </p><p> 新幹線開業は観光と密接に関連しており、開業関連施策の展開は「観光の組織化」の一形態と位置づけられる。そして、縄文遺跡群の中心的存在である三内丸山遺跡(青森市)の整備や縄文遺跡群の世界遺産登録運動は、東北・北海道新幹線の歴史と関連している。</p><p> 三内丸山遺跡は、新青森駅から1.6kmの距離にある。青森県営野球場の建設に伴い、遺跡破壊を前提とした大規模発掘が行われた。その結果、考古学的に貴重な遺物や遺構が相次いで出土したことから、1994年に保存が決定した。翌1995年に本格整備が始まり、2000年には国の特別史跡に指定された。ビジターセンターは2002年の東北新幹線・八戸開業に合わせて、また、遺跡から出土した重要文化財の展示スペース「さんまるミュージアム」は2010年の東北新幹線・新青森開業に合わせる形で建設された。</p><p> 加えて、縄文遺跡群の世界遺産登録は、前段階である「暫定リスト登録」の目標時期が、新青森開業に合わせて2010年度に設定されてきた(登録実現は2009年度)。つまり、遺跡整備は東北新幹線の開業時期を目安の一つとして進んできた。 </p><p></p><p>5.縄文遺跡群と北海道新幹線 </p><p> 北海道新幹線は2016年に新青森-新函館北斗間が開業した。2031年春に新函館北斗-札幌間が開業予定である。東北新幹線のうち盛岡以北は北海道新幹線と同じ「整備新幹線」エリアであり、最高速度が時速260kmに抑えられているなど共通点が多い。そして「東北新幹線(盛岡以北)+北海道新幹線」のエリアは、縄文遺跡群と空間的な広がりが重なる。</p><p> 現時点では、距離的な問題や公共交通期間の問題もあり、4道県の遺跡相互間の流動は必ずしも大きくない。北海道新幹線の札幌延伸が、この課題をどう解決するかが一つの焦点となる。</p><p>※参考文献:櫛引素夫(2022)「世界遺産登録と新幹線は地域をどう変えるのか─北海道・北東北エリアの観光に注目して」、弘前大学大学院地域社会研究科年報、18、pp.87-106</p>

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  • CRID
    1390014194595854592
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_119
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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