十勝坊主の凍上観測とアウトリーチ活動

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書誌事項

タイトル別名
  • Monitoring of frostheave and outreach activities of Tokachi-bozu (Earth Hammocks)

抄録

<p>1.はじめに 十勝平野の十勝坊主は,変形したテフラの存在やササなどの植生に覆われる状況から化石形であるとみなされてきた。しかし,冬季の降雪量が少なく土壌凍結が約50cmにも及び,かつ凍上性の良い火山灰性の土壌が表層に堆積する十勝平野では,現在も凍上によって十勝坊主が成長する可能性がある。本発表では,SfM測量を用いた十勝坊主(アースハンモック)の凍上観測について報告する。また,この研究を開始するきかっけになった,自然保護上の問題を含む現状とアウトリーチ活動について紹介する。 </p><p>2.調査地域と調査方法 調査を行った十勝坊主は,音更町東音更の士幌川左岸に分布する。分布地には,直径約2m,高さ約30-50cm程度の楕円形のマウンドが密に並んでいる。その多くは隣り合うマウンドと癒着している。地温観測を,楕円形の典型的な形状を持つマウンドの北向き斜面と南向き斜面で行った。センサー(設置深度-5,-10,-20,-30cm)はデータロガーに接続し,1時間間隔で地温を記録した。 SfM測量は,2021年10月31日,12月6日,2022年1月8日,5月9日の計4回実施した。外部評定に用いるGCPは測量範囲(約10×10m)に30箇所設置し,また隆起量の算出に必要な不動点を6個所,樹木の根幹に設置した。これらの基準点は毎回トータルステーションで位置を測定した。不動点の相対位置の差異は4回のTS測量で水平距離7mm以内,比高11mm以内に収まっており,凍上の影響をほとんど受けていないと判断できる。SfM測量に用いる写真の撮影にはミラーレス一眼カメラを用い,3mのポールの先端に固定して,真上よりやや斜め方向から撮影した。撮影枚数は各回とも約400枚である。 </p><p>3.調査結果 十勝坊主は土壌凍結の進行に伴い大きく隆起し,南向き斜面と比べて北向き斜面で隆起量が大きい結果となった。観測期間中の-5cm地温の最低値は南向きで-2.0℃(1月11日),北向きで-4.6℃(1月10日)であった。地温観測を行ったマウンドにおける10月31日から1月9日までの隆起量は,北向きから頂部にかけて約12cmであったのに対し,南向きでは約8cmであった。北向き斜面で隆起量が大きい結果は,相対的に強く冷却を受けたためと考えられる。 土壌凍結直前の10月31日と融解後の5月9日の地形を比べると,南向き斜面ではほとんど変化していないのに対し,北向き斜面では約2cmの隆起が認められた。2021-2022年の冬季は1月中旬まで雪がなく土壌凍結が進行しやすい状況ではあったが,この十勝坊主は,現在の気候環境下においても成長する現成の地形であると考えられる。 </p><p>4.十勝坊主を取り巻く現状とアウトリーチ活動 農地の拡大によって十勝坊主の分布域は縮小し,湿原周縁部などにわずかに残るのみとなった。また,十勝平野で最大面積と目される帯広空港の分布地には格納庫等の施設拡張が計画されており,分布地は消滅の危機にある。 行政等の関係者に十勝坊主保護の必要性を理解してもらうためには,市民の理解が重要である。しかし十勝坊主を知っているという人に会うことは少なく,知っていても谷地坊主と混同されることが多い。こうした状況を少しでも打開するため,博物館や公共施設での移動展開催や講演会などのアウトリーチ活動を展開してきた。その結果,報道機関の取材を受ける機会も増えている。現地での観測を続ける一方で,十勝坊主,ひいては周氷河地形のおもしろさと国内での希少性を伝える活動を続けていきたい。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194595868416
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_176
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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