南極氷床変動史研究から大規模氷床融解メカニズムの理解へ

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  • From the reconstruction of the Antarctic Ice Sheet history toward the understanding of the mechanism of large-scale ice mass loss

抄録

<p>1.はじめに  近年、南極氷床の融解や流出の加速が報告され、近未来の急激な海水準上昇が強く懸念されている。もし急激かつ大規模な海水準上昇が起きれば、社会基盤にも大きな影響を与えるため、南極氷床融解メカニズムの理解と海水準上昇予測の精度向上は重要な研究課題である。しかし、未だ南極氷床の融解メカニズムには未解明な要素が多く残されており、現在の融解傾向が大規模な氷床融解へとつながるのかも含めて、将来予測における大きな不確定要素となっている。この問題の解決には、氷河地形地質学的アプローチから過去の氷床変動を復元し、とくに氷床融解イベントを解析することで、大規模な氷床融解メカニズムを明らかにしていくことが重要となる(菅沼ほか2020)。  本講演では、氷河地形地質学に基づく南極氷床変動史研究が、技術進歩と他分野との連携で大きく進展したこと、そして我々が新たに提案した南極氷床の大規模融解メカニズムと将来予測への示唆を紹介する。 2.南極氷床変動史研究  これまで日本人研究者による南極氷床変動史の復元は、主に南極大陸沿岸での海水準変動と、南極内陸山地での氷床高度変動の復元から進められてきた。海水準変動復元では東南極リュツォ・ホルム湾の隆起海浜堆積物の記載と年代測定から過去の高海水準イベントを復元し、第四紀後半における東南極氷床の南極氷床変動を推定した(三浦ほか2002など)。一方、内陸では東南極セールロンダーネ山地で過去数百万年間の氷床高度復元が行われ(Moriwaki et al. 1992; Suganuma et al., 2014など)から、全球的気候変動に対する南極氷床応答に関する仮説が提唱された。しかし、これらの研究では氷床融解メカニズムの解明には十分踏み込めてはいなかった。 3.南極氷床の大規模融解メカニズム  最近、南極氷床の融解において、周極深層水の流入による氷床末端・棚氷の底面融解とそれに伴う氷床不安定化プロセスが注目されはじめた。しかし、このメカニズムが過去の大規模氷床融解で果たした役割やその他のプロセスとの関係の理解は進んでいない。そこで我々は、リュツォ・ホルム湾での氷河地形地質調査、高精度地形情報の取得と解析、および岩石試料の表面露出年代測定から最終氷期以降の氷床融解の規模・タイミングを復元した(Kawamata et al., 2020; 川又ほか2021)。そして、東南極ドロンニングモードランド中央部でも同様に取得したデータと氷床・海洋・固体地球モデリングと組み合わせることで、最終氷期以降の東南極氷床の大規模融解が周極深層水の流入に加え、アイソスタシーの影響による地域的な高海水準によって引き起こされた可能性を示した(Suganuma et al., 2022)。さらにリュツォ・ホルム湾の海底堆積物の解析から、周極深層水の流入によって海底谷沿いの棚氷が先行して崩壊することで湾南東部(湾奥部)から氷床融解が始まり、やがて浅海部に融解が伝播したことが明らかになった。以上の結果は、南極氷床の大規模融解では、周極深層水流入だけでなく海水準上昇による氷床・棚氷不安定化が重要であること、そして現状の将来予測モデルでは解像困難な数10 kmスケール以下の地形的特徴と、海洋構造とその変化が大規模氷床融解の鍵となる可能性を示す。今後は、氷河地形地質学と他分野がより密接に連携し、将来予測の高精度化に資することが望まれる。 文献:Kawamata et al. 2020.QSR 247:106540. 川又ほか 2021.地理評 94:1-16. 三浦ほか 2002.月刊地球24:37-43. Morkiwaki et al. 1992 Rec. Prog. Ant. Ear. Sci. 661-667. Suganuma et al. 2014.QSR 97:102-120.菅沼ほか 2020.地学雑誌129:591-610, Suganuma et al. 2022. CE&E 3:273.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194595879680
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_14
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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