八ケ岳大月川流域における大月川岩屑なだれ堆積物の給源と地形発達

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  • Landform evolution and source of the Otsukigawa debris avalanche deposits in the Otsukigawa basin on the Yatsugatake Volcano in Central Japan

抄録

<p>1.はじめに 八ヶ岳火山・東天狗岳東麓の大月川流域には,多数の流れ山地形を伴う岩屑なだれ堆積物が存在する.これは北端をニュウ,南端を硫黄岳までの連続する巨大な崩壊地形を推定給源とし,大月川岩屑なだれと呼ばれる(河内,1983).大月川岩屑なだれ堆積物は,推定給源から約10km流走し,松原湖周辺に流れ山群を形成し,千曲川を閉塞して天然ダムを生じたとされる(河内,1983).大月川岩屑なだれの誘因は,歴史資料と堆積物中の年代試料からAD887仁和五畿七道地震が有力視されてきた(石橋,1999;井上ほか,2010).しかし,山田ほか(2021)によって,既存研究で得られた松原湖付近の材化石の年代はBC350~AD1460に分散するとの指摘がある.また,苅谷ほか(2021)では,材化石のC14年代測定により,大月川岩屑なだれ堆積物と年代の異なる崩壊堆積物をみどり池,稲子湯,本沢温泉付近で確認している.地形的な視点からAD887の崩壊は,堆積物から推定される崩壊量が地形的な崩壊規模よりも少ないこと(井上ほか,2010),一度の崩壊ではなく少なくとも4回のマスムーブメントの発生が示唆されている(町田ほか,2011). 本発表は,大月川岩屑なだれの詳細な給源を明らかにするとともに大月川流域の地形発達史を考察した.</p><p>2.研究手法 崩壊堆積物の分布を明らかにするために,基盤地図情報の5mDEMを用いてCS立体図を作成し地形判読を行った.ここでは滑落崖,ローブ状地形,流れ山地形をマッピングした.山体の構成岩石と流れ山などの堆積物について現地調査及び,岩石の記載・化学分析を行った.それにより,山体崩壊の給源や回数,順序について検討した.</p><p>3.大月川岩屑なだれの給源 松原湖周辺に分布する流れ山は54個あり,地表面に露出する岩石が認められた28個の流れ山について岩石試料を採取した.流れ山の全ては流理が発達し,赤色酸化した直方輝石角閃石デーサイトの巨礫で構成されている.これは,稲子岳を構成する稲子岳溶岩と特徴が一致する.東天狗岳直下の滑落崖を構成する岩石の天狗岳溶岩と本沢溶岩はどちらも安山岩であるため,流れ山の構成岩石と一致しない.以上の事実から,流れ山等の大月川岩屑なだれ堆積物をもたらした崩壊は稲子岳付近を発生源とすることが考えられる. </p><p>4.大月川流域の地形発達史 ニュウ-東天狗岳の長大な滑落崖があるが,その約半分ほどを構成する安山岩が流れ山及び大月川流域から見つからない.したがって,大月川流域の巨大山体崩壊は,先に東天狗岳付近の滑落崖を起源とする崩壊が発生し,その後稲子岳付近を給源とする崩壊が発生したと考えられる.そして,大月川上流に存在するローブ状地形を形成した地すべりと等の崩壊が反復して発生したと考えられる.しかし,松原湖付近に複数のローブ状地形がみられること,大月川岩屑なだれ堆積物から得られた年代試料の結果がばらけている(山田ほか,2021)ことから,稲子岳付近を給源とする巨大山体崩壊がAD887に発生したことは確からしいが,松原湖周辺の流れ山地形が1回の巨大山体崩壊で生じたと考えるにはより詳細な調査が必要である.</p><p>文献:石橋克彦 1999,地学雑誌108: 399-423.井上ほか 2010,平成22年砂防学会発表概要.河内晋平 1983,地質学雑誌 89: 173-182.苅谷ほか 2021,日本第四紀学会2021年大会要旨集.町田ほか 2011,地形 32: 351.山田ほか 2021,砂防学会誌 73(5): 3-14.</p><p>付記: 本研究の現地調査の一部に,JSPS科研費(JP19H1369)の助成を受けた.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194595890944
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_175
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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