青森県小川原湖湾口部における完新世地形環境変遷

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タイトル別名
  • Holocene geomorphological environmental changes around the mouth of the Lake Ogawara-ko, Aomori Prefecture, Northeastern Japan

抄録

<p>はじめに</p><p>小川原湖は青森県東部に位置する面積62km2,平均水深11 m,湖の最深部は25 mの汽水湖である.湖の北部に位置する湾口部に分布する1~2列の浜堤・砂丘によって太平洋と隔てられており,海跡湖に分類される.湖周辺の更新世段丘や砂丘上には,貝塚をともなう多数の縄文遺跡が立地する.発表者らは,縄文遺跡を取り巻く自然環境変遷を明らかにすることを目的として,地形・地質調査を実施している.今回,小川原湖湾口部の仏沼周辺において新規にボーリング調査を実施し,既報のコア試料とも対比し,地形環境変遷について考察した.</p><p></p><p>調査方法</p><p>小川原湖湾口部に位置する仏沼の東側の1地点(HN1コア)で,掘削長15 mの機械式ボーリング調査を実施した.また,仏沼西側の1地点(HN8コア)でハンドオーガーによるボーリング調査を実施した.得られたコア試料は層相観察を行うとともに,HNコアについては貝化石の同定と計3点の14C年代測定を実施した.年代測定値の暦年較正はMarine20をデータセットとして用いた.これら2本のコア試料に加え,HN8コア西方の浜堤上に位置するWSコア(佐藤ほか2018)も考察に用いた.WSコアの年代測定結果はMarine20を用いて再較正した.</p><p></p><p>結果</p><p>HN1コア(孔口標高2.89 m)は,大きく3層準に区分される.最下部の標高−11.20 m以深はやや粗粒で,亜円礫混じりの中粒~極粗粒砂からなる.この層準からはマガキの貝化石が多産し,標高−12.09 mの試料から8,583~8,311 cal BPの年代測定値が得られた.標高−11.20~1.55 mは貝殻片混じりの極細粒~細粒砂からなり、所々に生痕が認められる.標高-7 m付近より下位ではオオノガイ,標高-7~-4 mはヒメシラトリが多く,内湾砂泥底環境が示唆される.他方,標高-4 m以浅ではアサリやホソウミニナが多産し,砂質干潟環境が示唆される.標高−6.99 mのサビシラトリからは7,728~7,455 cal BP,標高0.34 mのアサリから6,262~5,950 cal BPの年代測定値が得られた.標高1.55 m以浅は腐植質シルトや泥炭からなり,淡水湿地堆積物と推定される.</p><p>HN8コア(孔口標高1.29 m)では標高0.6 m以深が砂質シルト~シルト質細粒砂からなり,フレーザー葉理が発達することから干潟堆積物と推定される.また,標高0.6 m以浅は腐植質シルトあるいは泥炭からなり,淡水湿地堆積物と推定される.</p><p></p><p>考察</p><p>WSコアでは標高-12.1mから7,868-8,154 cal BP,標高-8.8 mから7,613-7,901 cal BP,標高-6.2 mから6,486-6,819 cal BPの年代測定値が得られており,HN1コアと比較すると同時間面が湖側(西側)に向けて深くなり,古水深が増大する傾向が読み取れる.このような同時間面の傾向から,縄文海進によって海域が拡大し内湾環境が成立する過程で,湾口部周辺に上げ潮三角州が形成されたと推定される.</p><p>湾口部では,海水準上昇に応じて主に砂質堆積物が上方に急速に堆積した.このため,8kaから6ka頃にかけて,水深の浅い内湾砂泥底や干潟の環境が継続し,貝類の採取しやすい環境が広がっていた可能性が示唆される.その上位では,HN1,HN8コアおよびWSコアのいずれの地点でも干潟堆積物が卓越することから,7ka頃以降,海水準上昇の低下と砂質堆積物の堆積によって徐々に水深が低下し,6~6.5ka頃以降には干潟環境が拡大したと推定される.その後,海側の浜堤列の発達によって淡水湿地化が進んだと考えられる.</p><p></p><p>引用文献</p><p>佐藤善輝ほか(2018)青森県小川原湖の湾口部における完新世中期以降の地形環境変化.日本第四紀学会講演要旨集,48,56.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194595892608
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_182
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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