上信越地域における高速交通体系を利用した医療従事者の通勤圏拡大と医療提供体制の変化

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タイトル別名
  • Expansion of commuting areas for medical staff using high-speed transportation system and changes in medical care provision system in Joshinetsu region

抄録

<p>高速交通体系の整備が地域間の結びつきを変え、交通の変化は地域間移動に少なからぬ影響を与えてきた。すでに、東京大都市圏の郊外外縁部の通勤者(古田2022)、軽井沢町の現役世代の移住(鈴木2022)など、都心地域を中心とした東京圏への労働者の通勤に関する新たな研究がみられる。いずれも、居住選定の要因として良好な生活環境と東京圏への遠距離通勤を指摘しており、高速交通体系の整備が労働者の移動負担の軽減にも寄与している。とくに医師、看護師などの医療従事者は、患者と対面接触する必要がある。ゆえに、高速交通体系の整備によって通勤の負担が緩和されれば、医療従事者の不足する地域における医療提供体制の改善が期待される。 </p><p>そのような問題意識を背景に、三原ほか(2022)では、新潟県の上越医療圏と長野県の北信医療圏の2医療機関において、常勤医と非常勤医の双方にみられた新幹線通勤の通勤圏は関西圏から東京圏まで広範囲であること、それゆえ、新幹線通勤の交通費負担が病院経営を圧迫していることなどを明らかにした。そこで本発表では、上越医療圏、北信医療圏および長野医療圏の北陸新幹線延伸地域の20病院に対象を広げて、質問票による調査を実施したので報告する。 質問票調査は、2022年11月から12月にかけて実施した。事前に病院に対し電話で調査協力を打診し、その後メール送付し、メールまたはGoogle Formより回答を収集した。その結果、11病院より回答を得た。11病院は、40~313床の病床を有し、新幹線最寄駅は糸魚川駅、上越妙高駅、飯山駅、長野駅のいずれかにあたり、それぞれの駅から約10km圏内に位置した。 </p><p>主な結果は2点挙げられる。1つ目は、11病院のうち、9病院が常勤医もしくは非常勤医に新幹線通勤の者がいると答えており、多くの病院で医師の新幹線通勤がみられたことである。それらの医師の担当診療科は、内科、整形外科、耳鼻咽喉科、皮膚科、総合診療科、リハビリテーション科、泌尿器科、脳神経外科、精神科、麻酔科、形成外科、小児科、歯科、眼科、消化器科、救急科におよぶ。医師の新幹線通勤が多岐にわたる診療科の維持に貢献していることが明らかになった。職種別に医療従事者の充足状況を尋ねると、1病院が「医師がやや過剰である」、10病院が「医師が不足している」もしくは「医師がやや不足している」と回答した。 </p><p>2つ目は、高速交通体系の整備を受け、医療提供体制に変化がみられたことである。「医療従事者の手配が容易になり、手術や治療を行いやすくなった」「県内の遠隔地や他県の医療機関との人的ネットワークや情報交換が増えた」「医療従事者の研修機会への参加が増えた」など、医療提供機会の増加や医療の質向上に資する動きが確認された。 </p><p>以上のことから、対象地域にもたらされた高速交通体系の整備による移動時間の短縮は、医師の確保だけでなく、医療提供体制そのものの改善に資することが明らかになった。 </p><p>鈴木修斗2023.軽井沢町およびその周辺の新興別荘地区における現役世代のアメニティ移住.地理学評論96-1,1-32. 古田 歩・牛垣雄矢2022.三島駅周辺地域における遠距離通勤者の特性と地域が抱える課題.東京学芸大学紀要人文社会学系Ⅱ,73,35-46. 三原昌巳・櫛引素夫・大谷友男2022.地方総合病院における医療従事者確保の動向―上越および北信医療圏の事例―.2022年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集,224.※本研究はJSPS科研費21K01020の助成を受けたものです。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194595923456
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_268
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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