奈良県生駒市の戸建住宅地における空き家に関する住民意識と対策状況

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  • Residents' perceptions and measures for vacant houses in a detached residential area in Ikoma, Nara

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 都市の郊外地域における空き家の増加が指摘される中,その解消に向けた産民官による様々な取り組みがみられる(由井ほか2016).一方,多くの自治体では予算や人的制約から特定空家対策が中心となり,より広範な対策が課題視されている(浅野ほか2022).今後,大都市圏では更なる高齢化が予測されており,既存空き家の利活用だけでなく,その発生を未然に防ぐ予防対策が重要な課題となる.</p><p> 本研究は,関西都市圏郊外の戸建住宅地である奈良県生駒市の鹿ノ台団地で実施したアンケート調査に基づき,空き家に関する住民意識や対策状況から,空き家の予防に向けた課題の把握を目的とする.当該団地は1970年代から開発され,標高100~180mの丘陵地にある生駒市最大の住宅地である.人口は6,792人,戸建世帯数2,691世帯,高齢化率は42%で(令和2年国勢調査),地区計画の指定を受け,防犯活動や交流行事等の自治会活動も活発に行われている.開発年次は古いが,市の2016年調査による空き家率は2.3%であり,市内の他地区に比べて低い水準に留まる.</p><p></p><p>2.調査方法</p><p> 本研究では,鹿ノ台団地の全居住世帯に対してアンケート調査を実施した.調査は2022年10~11月に郵送による配布,郵送及びWeb経由による回収を行い,有効回答数は887票,回収率は32%であった.調査項目は,住宅及び世帯の属性のほか,維持修繕や周辺環境,コミュニティなど現在の住宅・住環境の状況,定住意向や住宅に対する今後の意向,将来に向けた対策等である.</p><p></p><p>3.調査結果と考察</p><p> 回答者の世帯主年齢は70歳以上が58%を占め,1~2人世帯は66%に上る.住宅の間取りは4~5部屋タイプが87%を占め,広い戸建に居住する高齢単身や夫婦のみ世帯の回答が多い.1980年代以前の建築住宅は89%に上る一方,2010年以降の入居者は22%を占め,経年住宅でも住み替えが進んでいる様子が窺える.</p><p> 住宅や周辺環境で困る点としては,建物や庭木の管理が大変との回答が最も多く,団地内道路が歩きづらいとの指摘も多い.空き家発生への関心は非常に高く,全体の66%は10年以内に問題化すると回答している.定住意向は高いが,自身が住まなくなった場合の住宅の処分方法としては売却が38%と最も多く,親族の入居も29%を占めた.ただ,住宅の相続など将来に向けた対策は「今後考える」と「考えていない」を合わせて67%を占めた.空き家予備軍(図1参照)以外の世帯や住宅の維持修繕や地域活動に積極的でない世帯は,具体策を検討していない傾向が捉えられた.</p><p></p><p>4.おわりに</p><p> 上記のように,空き家に対する問題意識は総じて高いが,住宅のメンテナンス意識やコミュニティへの参画意識が低い世帯や若中年層では,予防対策を喫緊の課題として捉えていない点が明らかとなった.売却や賃貸,相続等の手続きに不安を持つ回答も多く,市の空き家対策の認知度は低い.生駒市では空き家の流通促進に向けた支援制度を設けているが,空き家防止対策としても活用し,住民に周知・啓発していくことが課題として挙げられる.</p><p> </p><p>参考文献</p><p>由井義通・久保倫子・西山弘泰編2016.『都市の空き家問題 なぜ?どうする?』古今書院.</p><p>浅野純一郎・井上佑樹2022.「地方中核市における空家等対策計画の運用状況と課題に関する研究」都市計画論文集,57-1,114-125 </p><p>付記</p><p>本研究はJSPS科研費 20K01183の助成 を受けた.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194595924992
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_271
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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