明治初年の地籍図の作成過程に関する一考察

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • A Study of the Process of Creating Cadastral Map from 1872 to 1877
  • Focusing on cases in southern Kyoto Prefecture
  • 京都府南部の事例を中心に

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 明治初年の地籍図(壬申地券地引絵図と地租改正地引絵図)は,近世の村図の作成技術で作られた。近世の村図は,様式が揃わない場合が多いが,明治初年の地籍図は大きな地域差を含むものの,府県ごとの雛型が管下に伝達されたので,作成技術や方法が比較できる。桑原(1987)や佐藤(1986)などでは,布達類や土地調査の方法を定めたマニュアルである心得書に注目し研究が進められた。近年は,地籍図の公開も進んでいるので,京都府南部を主な事例に地図の作成過程を考えたい。  </p><p></p><p>2.壬申地券地引絵図:一村全図</p><p> 近世の大山崎庄村は,明治4年11月に京都府に編入された。しかし,大阪府への編入を希望する村民もおり,明治6年10月に分割され,山崎村が大阪府に編入した(現:島本町)。大山崎町歴史資料館には,大山崎荘村の壬申地券地引絵図が残されている。年紀はないが,分割前の範囲が描かれており,明治5年9月~6年10月作成と評価できる。</p><p> この図は,一般的な字限図とは異なり,道や畔など字の境界で切り分けられている。各図がうまく整合し,約1/600の縮尺の一村全図形態となる。同村は広く,全て合わせると数メートルの大きさになるので切り分けたと思われるが,パズルのように整合するので大型の一村全図の作成過程が分かりやすい。下図を裏張りした袋が残されており,道路と水路だけが描かれている。交点や屈曲点に針穴があり,道幅も丁寧に描き分けいている。伊能図で知られる技法だが,道路と水路の丈量によって地図全体の骨格を定めており,現在の地図とも高い精度で合う。</p><p> また,下図には方眼状の線が引かれており,完成図には,これと整合するヘラで押した跡がある。明治8年8月から実施された京都府の地租改正事業では,明治15年刊の『府県地租改正紀要』に「盤目界紙ヲ以テ求積スルノ法」で丈量したとあり,面積の計測にも用いられたことがうかがえる。道路水路を丈量した下図を作り,針穴と方眼を用いて一筆線の加筆と面積の求積を行い,提出図を作成したことが分かる事例である。</p><p></p><p>3.地租改正地引絵図:字限図</p><p> 竹林(1989)の研究では綴喜郡の地租改正日誌簿が分析された。これによると,明治8年10月1日より丈量人(1郡3名雇入)が村々を巡回して実地丈量方法を伝習し,間竿・水縄・曲尺・コンパス・三角定規・碁盤目界紙などが調達された。同月5日頃から練習を兼ねて道路の丈量が行われ,11日から田畑の丈量が行われた。丈量を終えた地所は,一筆ごとに畝杭を立て,字名・地番・反別・持主などを記した「丈量野帳」が作られた。11月 7 日には,郡総代から「丈量野帳并耕地絵図差出方之達」が廻達され,官吏による丈量検査の準備が始められたという。</p><p> 竹林の研究では地図の検証が行われていないが,地租改正地引絵図を収集すると,道路水路に測量地点を記した事例が散見され,各筆に検査に合格した印が押されている。田中(1993)では,字ごとに建てられた2本の杭の現存例が紹介された。これは,戸長役場の建物を解体した時に柱材に再利用されたものが発見された貴重な事例である。柱の4面を使い,(1)字番号・字名・一筆の数・字の合計反別・村名,(2)内訳として田地・畑地・宅地の反別,(3)内訳として藪地・溜池・荒地・養水井戸など雑種地の反別・(4)「明治九年六月十三日 丈量検査済」の情報が記されている。官吏の検査では,畝杭と字ごとの情報をまとめた杭を立て,合格したら「丈量検査済」の文字の上に焼き印を押したことが分かる事例である。京都府では,字限図だけが残り,一村全図を確認することが少ない。一村全図形態の壬申地券地引絵図が既に存在したことから,新規に作成する必要がなかったと考えられる。</p><p></p><p>〔付記〕本発表の調査にあたり,大山崎町歴史資料館,京都府立山城郷土記念館の職員の皆様にお世話になりました。伏して御礼申し上げます。 </p><p></p><p>【参考文献】</p><p>・桑原公徳 1987.『地租改正ニ付人民心得書』にみる改租事業の府県差,鷹陵史学 13 85-115.・</p><p>佐藤甚次郎 1986. 『明治期作成の地籍図』,古今書院.</p><p>・竹林忠男 1989.京都府における地租改正ならびに地籍編纂事業(上),資料館紀要17,京都府立総合資料館: 43-132.</p><p>・田中淳一郎 1993.木津町鹿背山区郷蔵から見つかった資料,山城郷土資料館報11号: 67-74.</p><p>・福島克彦編著 2022.『古絵図の魅力 : 地図で旅する大山崎 : 第三〇回企画展』,大山崎町歴史資料館.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194595927168
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_277
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ