東京都八王子市の郊外住宅地における空き家の現状と対策

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  • Current status of housing vacancies and measures against it in a residential suburb of Hachioji, Tokyo

抄録

<p>人口減少社会を迎えた日本では,高度経済成長期に開発された郊外住宅地の空き家問題が深刻化し,これに対する行政や民間による対策が講じられてきた.しかし,そうした対策の実態や効果に関する研究は少ない.本研究の目的は,八王子市の郊外住宅地における空き家問題への対策と効果を明らかにすることにある.対象地域は,2016年に鄭・若林(2017)が実態調査を行った八王子市北野台をとりあげ,その後の変化を含めた分析を行う.</p><p> 八王子市は空き家対策に積極的に取り組んでおり,2013年に空き家条例を施行した後,2018年に実施した実態調査では空き家所有者の意向調査も行った.その結果をふまえて,2021年には「八王子市空き家等対策計画」を公表するとともに,改修費用の補助や相談窓口の開設などの対策を実施してきた.</p><p> 調査対象となる北野台は,西武不動産が1970年代に分譲を開始し,開発面積は約70haと市内の民間分譲住宅地としては,めじろ台に次ぐ規模となる.なお,本研究では1~4丁目を対象にし,1995年から分譲が始まった5丁目は対象外とした.年齢構成では2020年の老年人口率が47.9%と高齢化が進んでいる.とくに2000年~2015年の間で急速に高齢化が進行したが,2020年にかけてそのペースは鈍化した.2000~2020年の世帯数は2,100前後と横ばいであるが,人口数は22%減少して5,027人になり,若年者の流出によって世帯の小規模化が進行している.</p><p> 対象地域の住宅はすべて一戸建てで,地区計画によって建物用途・高さおよび壁面の制限や敷地分割規制あるため,町並みの一体性は概ね維持されている.2018年には,国交省の「空き家対策等マネジメント事業」のモデル化対象地域となり,空き家防止策についても多様な担い手の連携といった具体的な提言がなされた.</p><p> 2022年11月に実施した目視による現地調査によると,空き家率は3.24%で,鄭・若林(2017)が報告した2016年当時の空き家率2.89%をやや上回っている.空き家の分布には地域内でも偏りがみられ,最寄り駅から遠い3丁目では5.13%と高い空き家率となっている.この傾向は2016年から変わっていないが,個々の空き家の分布には変化がみられ,対象地域内の70軒の空き家のうち,2016年から継続して空き家の住宅は12軒にすぎない.つまり,この5年間で8割以上の空き家は入れ替わったことになる.現地調査で確認された建築中の住宅も12軒あり,住宅の更新が進んでいる地区もある.ちなみに国交省の土地総合情報システムで検索すると,北野台地区で2016年第1四半期から2022年第2四半期に売買された住宅は53軒あり,平均2,900万円前後で取引されている.</p><p> 対象地域の居住者が空き家問題をどのように認識し,対策をとっているかを明らかにするために,2022年11月に質問紙調査を実施した.対象は1~4丁目の全住宅で,自治会に予め協力を依頼した上で2,052戸にポスティングで配付し,郵送回収(一部オンライン回答)で749人から回答が得られた(回収率36.5%).質問内容は,空き家問題に対する意識や防止対策に関するものである.</p><p> 回答者の入居時期は1980年代以前が56%を占めるが,2010年以後の入居者も15%程度あり,40歳代以下の比較的若い世帯の転入もみられる.回答者の70.3%は70歳以上の高齢者で,70歳以上の世帯主で2人以下の世帯が61%を占める.また,自治会の活動が比較的活発で,地域活動には回答者の約7割が参加している.</p><p> 住宅の定期的な修繕やリフォームを行っている回答者は80%を越え,住宅の維持管理への関心は総じて高い.しかし,住宅や周辺環境について困っていることを尋ねると,建物や庭木の手入れが難しくなっていると回答した人が31%あり,交通アクセスや買い物場所が遠いことに不満を持つ人も8%前後にのぼる.このため10年以内に空き家問題が深刻化すると予想する人は89%に達する.</p><p>将来住まなくなった場合の家の処分については,親族譲渡,売却,未定に分かれ,高齢者ほど相続か売却を考えている.しかし住宅の相続や継承など将来に向けた対策を行っている世帯は全体の11%にすぎず,相続・売却手続きについての情報不足から不安を抱く人も少なくない.また,八王子市の空き家防止策について尋ねたところ,知っている人はほとんどおらず,行政の施策が周知されていないことがわかった.</p><p> 以上のように,北野台地区の空き家は増加しているとはいえ,住宅の更新や若年世帯の流入も一定程度みられる.総じて居住者の空き家問題に対する意識は高いものの,行政の対策や相続・売却についての情報が不足しているため不安を抱く人が多く,今後は空き家対策に関するいっそうの情報提供が求められる.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194596008192
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_87
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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