東北太平洋岸南部・真野川低地における完新世の堆積環境と地殻変動傾向

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タイトル別名
  • Holocene depositional environment and crustal movement trend in the Mano River Lowland, southern part of Pacific coast, northeast Japan

抄録

<p>東北地方太平洋岸では,10万年スケールの隆起傾向と最近数10~100年間の沈降傾向という,観測する期間の長さによって異なる地殻変動の向きが,海溝型巨大地震サイクルと関係づけて説明されてきた(例えば,池田ほか,2012)。しかし,海成段丘の分布(隆起傾向の根拠)が断片的で編年データが希薄な地域の存在(小池・町田,2001)や,完新世地殻変動データの欠如によって,観測記録よりも長期間の地殻変動には不明点が多い。東北地方太平洋沖地震以降には, 東北地方太平洋岸北部(三陸海岸)における沖積層研究に基づいて,完新世における三陸海岸北部の相対的隆起,および中~南部の沈降傾向が(例えば,丹羽ほか,2014; Niwa and Sugai, 2020),海成段丘の判読・編年に基づいて,最近10万年間の隆起傾向が確実に認定できるのは三陸海岸最北部(八戸~久慈)のみであることが(宮内ほか,2013;宮崎・石村,2018),それぞれ指摘されている。このように,東北地方太平洋岸北部では,近年の地形・地質研究によって,様々な時間スケールにおける地殻変動の矛盾や整合性の検討が進みつつある(Niwa and Sugai, 2021)。一方,東北地方太平洋岸南部の福島県浜通り海岸では,海成段丘の分布に基づいて,MIS5eの旧汀線高度の北方への低下が報告されている(Suzuki, 1989)ものの,完新世における地殻変動は不明である。本発表では,上述のMIS5e海成段丘分布域の北限付近に位置する,福島県南相馬市鹿島区の真野川下流域(真野川低地)において,4本の堆積物コアの解析と14C年代測定値に基づいて,完新世の地殻変動傾向を推定した。</p><p> 真野川低地の地下に分布する堆積物は,基盤岩直上に分布する砂礫層とそれを覆う完新世堆積物に大別される。前者の砂礫層は,分布深度に基づいて,埋没段丘礫層(ユニット1)と沖積基底礫層(ユニット2)に区別される。完新世堆積物は,下位から,砂礫層と砂泥層から構成され,最上部では海水生の珪藻を多産するエスチュアリー堆積物(ユニット3),上方粗粒化を示すシルト~砂層で,上位ほど淡水生珪藻の産出割合の大きいプロデルタ~デルタフロント堆積物(ユニット4),および,砂泥層および砂礫層から構成され,淡水生珪藻を多産する河川堆積物(ユニット5)に区分される。</p><p> 最も上流側に位置するコアのユニット4上部(標高-3.29~-3.24 m)で得られた木片からは,7440 – 7320 cal BPの較正年代が得られている。このことから,当時の海水準は標高-3.3 mよりも高いことが推定される。</p><p> 三陸海岸中部の津軽石平野では,沈降傾向に伴う完新世中期の塁重的なデルタ堆積物の発達が報告され,7420 – 7270 cal BPの較正年代を示す潮間帯堆積物が標高約-11.5 mに認められる(Niwa et al., 2017)。本研究対象地域における7400~7300 年前の相対的海水準は,津軽石平野における同時期の相対的海水準よりも8.2m以上高い。このことから, 完新世において,真野川低地は津軽石平野に対して,平均1m/千年程度以上相対的に隆起していると考えられる。</p><p></p><p>文献:池田ほか(2012)地質学雑誌,118,294-312.小池・町田(2001) 東京大学出版会, 105p. 宮内ほか(2013) 東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の調査観測 平成24年度成果報告書, 99-118.宮崎・石村(2018)地学雑誌, 127, 735-757.Niwa and Sugai (2020) Marine Geology, 424, 106165. Niwa and Sugai (2021) Geomorphology, 389, 107835. 丹羽ほか (2014) 第四紀研究,53,311-322.Niwa et al. (2017) Quaternary International, 456, 1-16. Suzuki (1989) Geographical Reports of Tokyo Metropolitan University, 24, 31-42.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194596015104
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_36
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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