自治会活動による希少種保全の可能性

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タイトル別名
  • Possibility of conservation of endangered species through neighborhood association activities
  • Case study of Asakawa District, Nagano City
  • 長野市浅川地区の事例から

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 地域の生物多様性を保全するうえで,市民による活動は重要な役割を担っている。長野県内でも多くの市民団体が希少種の保護や里山環境の保全など,生物多様性保全に関するさまざまな活動を実施している。近年,2030年ネイチャーポジティブの実現に向け,生物多様性への社会の関心が急速に高まりつつあり,各地の保全活動に対する期待も今後ますます高まることが想定される。県や市町村など行政としても,市民活動との連携を強化し,活動推進に向けた施策を展開する必要がある。しかし,動植物の愛好家を主体とする保全団体は高齢化や資金不足に悩む団体も多く,新たな活動の展開や後継者の育成が進まない場合も多い。そうした中,自治会による取り組みで成果を上げている事例も見受けられる。本報では,長野市浅川地区における希少チョウ類ゴマシジミ保全の事例を紹介しながら,住民自治組織を主体とした保全活動の可能性について検討する。</p><p>2.長野県の保全団体の現状</p><p> まず,長野県内の保全団体の現状と課題を把握するために2020年に実施したアンケートの結果(有効回答43)を示す。保全団体の組織形態は任意団体が75%,NPO法人は9%であった。事務局スタッフは無給が42%,有給は9%であったが,有給は法人格をもつ団体のみであった。年間の財政規模は10万円未満が33%,10~20万円未満が19%で,半数が20万円未満であった。会員の主な年齢層は,60歳代を中心に50歳代から70歳代が多くを占めた。保全団体が活動する上での課題(複数回答)は,会員の高齢化が74%でもっとも多く,次いで後継者不足が60%,活動人数が51%で,いずれも人材不足に関わることであった。このように長野県内の保全団体は法人格を持たない小規模な団体が多く,人材や資金面で課題を抱えている状況が推察されたが,一方で新たな人材の獲得に消極的な団体も多く,担い手不足による活動の縮小が危惧される。</p><p>3.浅川地区の概要</p><p> 浅川地区は長野市の北部に位置し,面積は約25km2,人口は6,461人(令和4年10月1日)である。地区の東部は長野市中心部から続く住宅地が広がるが,北西端には標高1917mの飯縄山があり,山麓の高原地帯から平地の住宅地の間に小集落が点在している。これら地区内の各区を束ねる組織として平成19年に浅川地区住民自治協議会が設立された。住民自治協議会(住自協)は,地域の特性を生かした活動を総合的に行う住民主体の自治組織として長野市が制度化した都市内分権の仕組みである。</p><p>4.浅川地区における保全活動の概要</p><p> この浅川地区内の山間部に位置し,長野市開発公社が管理する長野市霊園にゴマシジミが生息している。ゴマシジミはかつて県内各地に生息していたが,採草地など草原的環境の減少に伴って生息地が減少し,現在確認されている生息地は数ヶ所のみとなっている。長野市霊園においても一時は絶滅寸前にまで減少したが,2016年に種の保存法及び長野県条例の指定種となったことをきかっけに保護の機運が高まり,保全活動が開始された。活動内容は,シーズン中の早朝パトロール,看板設置,小学校での食草の栽培と現地への移植,小学生への学習会,中学校美術部による紙芝居作成などである。保全活動は住自協のまちづくり計画に位置付けられ,住自協事務局の地域活性化推進員が統括し,土地管理者の長野市開発公社や専門家とも連携しながら子供達を巻き込んだ活発な活動を展開している。これらの活動によりゴマシジミの生息数は増加傾向にある。</p><p>5.自治会による保全活動への期待</p><p> 浅川住自協の例から,住民自治組織が保全活動に取り組む利点として以下の点が挙げられる。①組織的に安定した活動の展開,②定年退職後で時間的に余裕のある元気な住民の協力,②地域の宝として保全するとともに地域の活性化にも活用,④広報誌を通じて繰り返し住民へ周知することで乱獲者の侵入を防止,⑤コミュニティスクールの制度を活用した学校との連携,⑥行政への働きかけが容易,などが考えられる。一方で,早朝のパトロールに3地区の区長が強制的に充てられるなどしており,主体性をどう育むかが大きな課題である。今後,従来からの保全団体に加え,住民自治組織による保全活動が広がることで,地域の生物多様性保全と活性化がより一層進むことを期待したい。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390014194596020864
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_51
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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