書誌事項
- タイトル別名
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- Diagnoses and new therapeutic strategy focused on physiological alteration of tryptophan metabolism
抄録
<p>うつ病の病態にはモノアミン仮説が提唱されており,抗うつ薬の主流が選択的セロトニン(5-HT)再取り込み阻害薬であることから,特に5-HT神経系の機能低下が広く受け入れられている.しかし,患者の約1/3は既存の抗うつ薬に対して難治性であるため,新しい創薬ターゲットに対する新規抗うつ薬の開発が求められている.トリプトファン(TRP)は5-HT経路だけでなくキヌレニン(KYN)経路においても代謝される.インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)は,TRP-KYN経路の代謝を行う最初の律速酵素である.IDO1は炎症性サイトカインによって強く誘導され,TRPを代謝し,5-HT経路で代謝されるTRPレベルを低下させ,その結果,5-HT合成を抑制し,うつ様行動を惹起する.下流のキヌレニン-3-モノオキシゲナーゼ(KMO)は,KYNを3-ヒドロキシキヌレニンに代謝する重要な酵素である.KMOが欠損すると,キヌレニンアミノトランスフェラーゼ(KAT)によりKYNが代謝され,キヌレン酸(KA)が増加し,うつ様行動が惹起される.一方,慢性予測不能軽度ストレス(CUMS)は視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系を破綻させ,前頭前野におけるKMOの発現が低下し,KAを増加させる.これにはCUMSによるKMOを主に発現するミクログリアの減少を伴っている.KAはα7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)アンタゴニスト作用を有する.ニコチンやガランタミンによるα7nAChRの活性化により,CUMS誘発のうつ病様行動が減弱される.IDO1の誘導による5-HT合成抑制と,KMO発現低下を介したKAレベルの増加によるα7nAChR拮抗作用はうつ様行動を引き起こすことから,TRP-KYN経路の代謝的変化がうつ病の病態に深く関与していると考えられる.TRP-KYN経路は,うつ病の新規診断方法や抗うつ薬の開発に向けた魅力的なターゲットになることが期待される.</p>
収録刊行物
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- 日本薬理学雑誌
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日本薬理学雑誌 158 (3), 233-237, 2023-05-01
公益社団法人 日本薬理学会