團伊玖磨の歌劇《建・TAKERU》の推敲過程 : 自筆譜と諸稿の比較を通して

書誌事項

タイトル別名
  • Creative Process of Ikuma Dan's Opera TAKERU : Through Comparison between Autographs and Manuscripts
  • ダンイキュウマ ノ カゲキ 《 ケン ・ TAKERU 》 ノ スイコウカテイ : ジヒツ フ ト ショコウ ノ ヒカク オ トオシテ

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抄録

團伊玖磨(1924-2001)の歌劇《建・TAKERU》(1997)は、古事記・日本書紀に綴られているヤマトタケルの生き様を團自らの手で台本にした、團の最後となるオペラである。作品は1997年10月10日に新国立劇場の開館記念委嘱作品として初演され、ダブルキャストで4回の公演が打たれたが、その後は一度も再演の機会に恵まれていない。また作品の権利はJASRACが著作権を保持しているのみで、楽譜の出版にも至っていない。筆者はまず楽譜の所在を明らかにすべく調査を行い、自筆譜を含む手稿譜が横須賀市役所に所蔵されていることが判明した。本稿では、團のご子息である團紀彦氏と横須賀市役所のご協力を得て入手した楽譜資料をもとに、諸稿の比較を通じてそれぞれの特徴を確認した上で、《建・TAKERU》の推敲過程を検証した。本作は全3幕8場から成る。團はこの作品を完成させるにあたり、脚本に約8か月、作曲に約2年を費やした。初演は、古事記・日本書紀を題材としていることや歌詞に古語を使用していることから皇国史観を思わせるといった評論も見受けられた。團は、観客に対して言葉を追う事に意識を向けさせるのではなく、音楽の構築を優先させることに重きを置いたことにより、あえて現代語でなく古語を使用したようであるが、一般の聴衆にはストーリーを理解する上で困難な点も見受けられたのであろう。初演では日本語の字幕がつけられ、鑑賞の一助を担った。楽譜資料に関して、横須賀市役所に以下の手稿譜が所蔵されていることがわかった。今回確認できた手稿譜は(1)自筆譜(Vocal score)、(2)自筆譜(Full Score)、(3)自筆譜(Vocal score)のコピー譜(Vocal score)、(4)演奏者用の楽譜として使用された筆写譜のコピー譜(Vocal Score)の4点である。各稿の特徴を検証した上で、これらの楽譜資料の成立順を検討したところ、概ね(1)→(2)、(3)→(4)の順で作成されたと考えるのが妥当だという結論が得られた。また各資料を相互に比較していくと数多の相違点が確認され、とりわけ幕構成の変更は全体のストーリーに大きな変化を与えることとなった。この変更により、第2幕は作品の最大の聴きどころとなったといえるだろう。テクストの変更は、観客に歌詞が届きやすくなる音楽的な効果と日本語の高低アクセントの問題を考慮して修正されたと考えられた。歌劇《建・TAKERU》は團の生前に楽譜が出版されることはなく、初演の演奏も團の意に反すると思われるカットもあったことから、最終的に團が意図した音楽がどうであったか確実なことはいえない。しかし一連の稿比較を踏まえて、音楽の構成を第一に考えていた團が台本や音楽の改訂によって、自身が長年切望していたオペラ作品を創り出すことができたといえるだろう。

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