地域在住高齢者の下肢筋力は呼吸機能に影響する:縦断的観察研究

DOI

抄録

<p>【はじめに,目的】</p><p>サルコペニアや呼吸機能の低下は,高齢者の誤嚥性肺炎の危険因子となる.近年では,サルコペニアに呼吸機能低下や呼吸筋の筋量低下が合併したrespiratory sarcopeniaという概念も提唱され,両者の関連性も着目されている(Nagano, et al. 2021).一方で,サルコペニアの構成要素と呼吸機能低下との関連性は十分に検証されているとは言い難い.本研究は,縦断的観察研究にて地域在住高齢者の骨格筋量,筋力,歩行能力が呼吸機能に与える影響を明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】</p><p>1年間の追跡調査が可能であった要介護認定のない65歳以上の地域在住自立高齢者259名(男性60名,女性199名,平均年齢71.5±4.5歳)を分析対象とした.除外基準は心疾患や呼吸器疾患の診断,認知機能低下疑いとした.ベースライン調査にて,呼吸機能,下肢筋力,歩行速度,骨格筋量を測定した.呼吸機能として努力性肺活量(Forced vital capacity:FVC),下肢筋力としては等尺性膝関節伸展筋力(膝伸展筋力)を測定した.膝伸展筋力は体重と下腿長でトルク体重比(kgf・m/BW)に換算した.また,骨格筋量は生体電気インピーダンス法にて四肢骨格筋量を測定し,身長で補正した骨格筋指数(Skeletal muscle mass index:SMI)を算出した.加えて,交絡因子として,年齢,性別,身長,体重,内服状況,老研式活動能力指標,Trail making test part Aを調査した.1年後に追跡調査を行い,再度FVCを測定した.統計解析として,従属変数を追跡調査時のFVC,独立変数をベースライン時の膝伸展筋力,歩行速度,SMI,調整変数に交絡要因とベースライン時のFVCを投入した重回帰分析を行った.またInverse provability weighting法(IPW法)を用いて追跡調査における脱落バイアスの影響も検討した.なお,統計学的有意水準は5%とした.</p><p>【結果】</p><p>重回帰分析にて追跡調査時のFVCとベースライン時の膝伸展筋力は有意な正の関連を認めた(B=0.005,p<0.01,調整済みR2=0.88).一方で,歩行速度とSMIは追加調査時のFVCとは有意な関連が認められなかった.なお,IPW法にて脱落バイアスの影響を調整しても追跡調査時のFVCとベースライン時の膝伸展筋力は正の関連を認めた.</p><p>【結論】</p><p>地域在住高齢者における呼吸機能には,サルコペニアの構成要素のうち下肢筋力が影響していることが示唆された.誤嚥性肺炎の予防においては下肢筋力の低下が認められる段階から呼吸機能の評価や介入を考慮していくことが重要であると考えられた.</p><p>【倫理的配慮、説明と同意】</p><p>本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号2018-008B).また,全対象者に対して書面にて研究参加に関する同意を得た.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ