事務職員の腰痛に対する腰部の運動制御に着目した介入効果:無作為化比較試験

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抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p>職業性腰痛は労働生産性の低下など社会経済へ与える影響は大きいとされている.特に事務職員の腰痛発症率は増加しており,事務職員に対する腰痛予防・改善の方策は重要である.腰痛の原因の1 つとして,体幹運動時に腰椎の運動が過剰に出現する腰部の運動制御不全が挙げられる.特に事務職は業務の特性上長時間の座位保持を強いられ,腰部筋群による能動支持機構ではなく靱帯などによる受動支持機構を用いた姿勢保持となる.そのため,事務職員では体幹運動時の腰椎の過剰な運動を制御する能力が低く,この腰部の運動制御不全が腰痛を誘発する一因となると考える.この腰部の運動制御不全に対して,四肢・体幹運動中に腰椎の運動を制御する腰部の動的運動制御運動(Dynamic Motor Control Exercise:DMCE)がしばしば用いられる.しかしながら,事務職員の腰痛に対するDMCEの介入効果についてはまだ明らかにされていない.そこで,本研究の目的は事務職員の腰痛に対する腰部のDMCEの効果を明らかにし,事務職員の腰痛に効果的な治療戦略を見出すことである.</p><p>【方法】</p><p>腰痛を有する事務職員 32名(男性:11名,女性:21名)を対象とした.研究デザインは無作為化比較試験とし,DMCE群と通常体幹運動群(Normal Trunk Exercise:NTE)の2群に無作為に振り分けた.DMCE群では,下肢・体幹の運動時に腰部の運動を抑制し股関節を中心に動かす運動を行った.NTE群では各姿勢で下肢・体幹を動かさずにabdominal bracingを行った.両群とも各運動を1 日30回行い,週3回8週間実施した.測定項目は,体幹前屈中の腰椎・股関節屈曲角度,腰痛における日常生活の能力障害(ODI)とした.運動角度の測定には慣性センサ(TSND151,株式会社 ATR Promotions)を使用し,慣性センサは胸腰椎・腰仙椎移行部,右大腿部の3箇所に設置した.体幹前屈中の胸腰移行部のセンサ傾斜角度と腰仙移行部のセンサ傾斜角度との差を腰椎屈曲角度,腰仙移行部のセンサ傾斜角度と大腿部のセンサ傾斜角度の差を股関節屈曲角度とした.体幹前屈中の腰椎および股関節屈曲角度を算出し,各値の介入前後の変化量を算出した.統計解析はSPSS version 22を用いて,各値の変化量を対応のないt検定にて群間比較した.有意水準は 5%とした.</p><p>【結果】</p><p>最終的にDMCE群は10名,NTE群は9名の計19名が解析対象となった.体幹前屈10°のみDMCE群における腰椎・股関節屈曲角度の変化量(腰椎屈曲角度の変化量:-1.2±1.0°,股関節屈曲角度の変化量:0.9±0.9°)がNTE群の変化量(腰椎屈曲角度の変化量:0.2±1.5°,股関節屈曲角度の変化量:-0.8±1.4°)と比較し有意に大きかった.ODIの変化量では,DMCE群(-11.5±5.7%)はNTE 群(-4.4±8.1%)と比較し有意に大きかった.</p><p>【結論】</p><p>事務職員の腰痛に対して腰部のDMCEによる介入は腰部・股関節の運動制御を改善し,腰痛軽減に有効であることが示唆される.</p><p>【倫理的配慮、説明と同意】</p><p>南砺市訪問看護ステーションの倫理委員会の承認を得た上で実施し,対象者には研究の概要を十分に説明した上で書面にて同意を得た(承認番号:2020.NHS.1).</p>

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