無料低額診療事業(無低診)の可能性と課題:無低診研究フォーラムの開催報告

書誌事項

タイトル別名
  • Challenges and opportunities of the Free/Low-Cost Medical Care Program (FLCMC): proposals from the FLCMC Research Forum
  • ムリョウ テイガク シンリョウ ジギョウ(ムテイシン)ノ カノウセイ ト カダイ : ムテイシン ケンキュウ フォーラム ノ カイサイ ホウコク

この論文をさがす

抄録

<p>背景:所得が少ないなどの経済的な困窮は健康に悪影響を及ぼす.経済的に困窮する人々の健康支援は重要な公衆衛生課題であるが,日本では所得が少ないほど必要な医療受診を控えやすいことがかねてより報告されている.経済的に困窮した患者の医療受診を支援する制度のひとつに無料低額診療事業(以下,無低診)がある.2020年度には延べ270万人の無低診の利用者がいるが,日本全体の利用者の実態と制度の課題が共有され議論される場所は乏しい.</p><p>方法:日本全国の無低診の実施医療機関から収集された無低診レジストリ研究の登録データと医療ソーシャルワーカーの実践を報告する無低診フォーラムをオンライン開催し,報告内容から無低診の可能性や課題を支援者間で共有した.</p><p>結果:無低診フォーラムにはのべ249名,常時200名以上が参加した.無低診レジストリ研究の登録データからは,利用者の約 4 割に過去 1 年間の経済的な理由による受診控えの経験があり,無低診の認知度によっても受診控えが緩和されないこと,利用者のうちの約半数は,今までに生活の困難を誰にも相談しておらず,無低診の利用をきっかけに始まる社会福祉による支援があることが示唆された.医療ソーシャルワーカーの報告からは,無低診による支援戦略をより効果的にする方法や,無低診の利用者における医療への障壁の低減が示唆される一方,無低診施設間の連携の困難さや,診療科や医療機関の規模による無低診の限界,無低診でカバーされない調剤費や訪問看護,介護サービスなどの利用控えの課題が共有された.さらに,無保険の外国人に対して無低診が活用されている現実があるが,病院経営等のさまざまな課題があることなどの問題意識が共有された.</p><p>考察:本フォーラムでは,無低診に関連する研究が果たすべき役割も示唆された.まず,レジストリ研究は,今後も多くの日本各地の医療機関と協力し利用者の状況把握をさらに進め,困窮する人々が無低診を利用するための障壁の除去に貢献できる資料を作成していくことが求められる.第二に,無低診により減免した医療費と税制上のインセンティブを考慮した無低診の経営影響を記述することが求められる.最後に,無低診の現代的な社会保障制度の中での役割や位置付けに関するさらなる議論が重要である.</p>

収録刊行物

  • 保健医療科学

    保健医療科学 72 (2), 134-142, 2023-05-31

    国立保健医療科学院

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ