CDR-J(臨床認知症評価尺度-日本版)の臨床応用における注意点:Japanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative (J-ADNI)研究の体験をもとに

書誌事項

タイトル別名
  • Notes on the clinical applications of the Clinical Dementia Rating-Japanese (CDR-J):A study based on the experience from the Japanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative (J-ADNI )
  • CDR-J(リンショウ ニンチショウ ヒョウカ シャクド-ニホンバン)ノ リンショウ オウヨウ ニ オケル チュウイテン : Japanese Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative (J-ADNI)ケンキュウ ノ タイケン オ モト ニ

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説明

<p>【要旨】 CDR検査(Clinical Dementia Rating)は軽度の認知障害から識別可能であり、日本でも筆者らが1993年にCDR-J検査(Clinical Dementia Rating-Japanese,臨床認知症評価尺度-日本版)を作成して以来、広く利用されるようになり、治療から生活支援までのさまざまな場面で使われるようになった。しかし、その妥当性や信頼性の向上には更に検証が必要である。これまでにCDR-J検査が適用された研究のうち最大規模のものは2006年から2015年にかけて行われたJ-ADNI研究(Japanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative)である。我々はこのJ-ADNI研究で対象となった432例のCDR-J検査データを検討し、この検査法を使用する際に注意すべきいくつかの問題点に気付いた。その経験をもとにCDR-J検査法で犯しやすい誤りとその対策を検討した。データで多い誤りは以下の5種類の誤りであった。</p><p>1. エピソード記憶課題において、「情報が少ない誤り」は全被験者432 例のうち延べ135例(31.3%)に認められた。エピソード記憶課題には、「必要なら、その出来事の詳細について話すように促しなさい。」と検査者への指示が記してある。出来事の詳細とは、出来事の場所、時刻、当事者、出来事の持続時間、終了時刻、当事者がどのようにその場所に到着したかなどである。この指示をJ-ADNIの検査者の一部が守らなかったので「情報が少ない誤り」が生じたのである。指示を守るように厳重に注意する必要がある。</p><p>2. エピソード記憶課題の「文字が判読できない誤り」は全被験者432例中延べ24例(5.6%)に認められた。検査者が被検者の回答を記録する際、文字が判読できるように書くのは、検査の前提である。この誤りはJ-ADNIの検査者が検査の前提を守れば避けられた。</p><p>3. 木村三郎課題の「反復に関する誤り」は432例中、延べ19例(4.4%)に認められた。木村三郎課題では語句を正しく反復できるまで、最大3回まで反復するという指示がJ-ADNIの検査者にあたえられていた。検査者がこの指示を守れば、この誤りは起こらない。指示を守るよう厳重に注意する必要がある。</p><p>4. 「空欄誤り」空欄誤りとはCDR-J検査の質問に対し何も回答が書いてない質問項目のことである。臨床認知症評価ワークシートの冒頭に、「以下の質問をすべて行ってください。」という検査者への指示が記されている。J-ADNIの検査者の一部が指示を守らなかったのでこの誤りが生じた。「空欄誤り」が生じうる79項目のうち、1つ以上に空欄があった症例は、全被験者432例中、延べ188例(43.5%)であった。「空欄誤り」は質問項目の答えとして何もないだけでなく、被検者が拒否したのか、反応がなかったのかも記してないものである。臨床認知症評価ワークシートの冒頭に、「以下の質問をすべて行ってください。」という検査者への指示が記されている。J-ADNIの検査者の一部が指示を守らなかったのでこの誤りが生じた。検査前に、この指示を守るように指導する必要がある。</p><p>5.「評価誤り」J-ADNI研究の検査者によって、全被検者432名に評価がなされていた。しかし、J-ADNIの検査者の一部が指示や前提を守らず質問項目が正しく施行されなかったので、上記4種類の誤り(上述の1~4の誤り)が生じ評価ができない評価不可例が297例(68.8%)もあった。432例から297例を引くと135例となる。全被検者432名中135例(31.3%)は評価可能な例であるので、135例に付けられていた評価に「評価誤り」があるかどうか我々が検討したところ、「評価誤り」は135 例中、延べ69例(51.1%)に認められた。「評価誤り」の中で最も多いのは記憶の評定の誤りで、延べ51例(73.9%)にみられた。評価誤りの多くはJ-ADNIの検査者が臨床認知症評価表の評価基準を順守すれば防げたであろう。</p><p>本研究の全被検者432例の中で、5種の誤り(上述の1~5の誤り)のうちの1つ以上が存在する例を合計すると、延べ435例であり、5種類間の重複69例を取り除くと、366例(84.7%)になる。これら366例は5種類の誤りのうち、少なくとも1つがある誤り例であった。全被検者432例の中で、誤り例366例を除くと66例が残る。この66例(15.3%)は5種の誤りのない有効例である。</p><p>CDR-J検査の注意点 1. J-ADNI 研究では全被検者432例の中で、366例(84.7%)に5種の誤りのうち少なくとも1つあった。5種の誤りの原因はJ-ADNIの検査者の一部がCDR検査の指示、前提及び評価基準を守らなかったために生じた。CDR-J検査を行う研究や臨床では研修などにより5種の誤りを除く努力が必要である。2. 治験をはじめ種々の研究論文でCDR検査の評価のみが発表されている。J-ADNI研究では、J-ADNI研究の検査者によって評価がついていたが、検査者が指示、前提及び評価基準を守らなかったため、4種の誤りが生じ、評価できない例が297例(68.8%)もあった。また、評価自体が誤っている例が135 例中69例(51.1%)もあった。CDR-Jを使用する研究や臨床では、4種の誤りがないことや評価誤りがないことを確認し、評価を付けるべきである。</p>

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