『桶物語』における風刺 : その難解さとスウィフトの意図

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抄録

JonathanSwiftの代表的な風刺作品の一つ『桶物語』ATale of a Tub (1704)^1は、彼の作品中において特異な位置を占める。Dr.JohnsonはLivesof the Poetsの中で、“Ithas so much more thinking, more knowledge, more power, more colour, than any of the works which are indubitably his^2 2匹と述べているが、こうした特色は表面上の難解さにつ ながっている。例えば後年の大作『ガリヴァ旅行記』Gulliver'sTravels (1726)との比較においてこの作品がより難解であることに異論はないであろう。その難解さの要因を挙げるとすれば、その第一は構成上の複雑さである。奇妙な内容が複雑なレトリックを駆使して展開され、アイロニーに満ちた議論が中心となる「脱線」Digressionの部分が、一応この作品の本筋と考えられる、キリスト教をアレゴリーの手法によって風刺した「桶物語」ATale of a Tub の部分の間に挿入されているだけでなく、序文、献辞、結語等がその前後に加えられてもおり、全体としてみると非常に錯綜した形式と内容を備えているということが一読して分かる。第二に、この書物の書き手として設定された人物、つまりスウィフトのペルソナpersonaとなる人物の特徴が難解さの要因である。彼は一見すさまじい博覧強記の、高度に知的且つ理性的な人間として、様々なレトレックを駆使し論を進めているかのように見え、そのテキストは“denseand capricious, full of unsignalled references, hints, and obliquities”である。^3だが仔細に検討してみると彼の論述は読者を欺き惑わす詭弁の連続であるといっても過言ではない。第1章「序論」Introductionでほのめかされているように、彼はグラブ街の文士のひとりであって、彼の書いたものであるという設定の本書は、一貫した関連性をその中に見出だそうとする読み方を拒むような、支離滅裂な様式と内容を最大の特質として持っているとさえ思われる。この小論では、若かりし頃のスウィフトの野心的な風刺作品の持つ難解さの要因を作品の構成と書き手の面から、またその理由を風刺家スウィフトの意図の面から考察し、作品の持つ独自の特質を明らかにしたい。

収録刊行物

  • 九大英文学

    九大英文学 32 21-37, 1989-11-20

    九州大学大学院英語学・英文学研究会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390015191534221056
  • NII書誌ID
    AN10150652
  • DOI
    10.15017/6786950
  • HANDLE
    2324/6786950
  • ISSN
    09160256
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • IRDB
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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