新型コロナ感染症流行下における精神看護学実習の学び

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抄録

<p>(緒言)</p><p> 2020年度は新型コロナウイルス感染症の感染防止のため,精神看護学実習の多くを学内演習に変更した.本研究は,コロナ禍の精神看護学実習における学生たちの学びを明らかにし,今後の精神看護学の教授方法について検討することを目的とする.</p><p>(研究方法)</p><p> コロナ禍における本学の精神看護学実習は学内演習(8日間),地域リハビリテーション施設での実習(2日間)であった.学内演習では,看護過程演習,ロールプレイ演習,精神看護実践演習,SST(Social Skills Training)などを行った.ロールプレイ演習では,看護過程演習で扱った紙上患者に沿った幻聴動画を作成し,患者役の学生は幻聴音声をスマホで聞きながら行い,患者役と看護学生役の双方を体験した.研究協力に同意が得られた学生の実習記録の記述内容をデータとした.分析はKJ法を参考に行った.</p><p>(結果)</p><p> 2週間の実習のうち,ロールプレイ演習(幻聴/うつ状態のある方との関わり),アクティブラーニングを用いた精神看護実践演習,教員が実施するSSTの4つの学内演習の実習記録のうち協力が得られた49名の記録を分析した結果,以下のカテゴリー【 】が抽出された.</p><p>1)幻聴のある患者/うつ状態にある患者とのロールプレイ:学生の学びは,【幻聴が思考や感情に及ぼす影響】【幻聴のある患者への関わり】【うつ状態にある患者の感情を実感】【うつ状態にある患者への関わり】【治療的関係を形成する方法】【信頼関係構築の実感】【患者-看護師関係の特徴】【自己の課題への気づき】などであった.</p><p>2)アクティブラーニングを用いた精神看護実践演習:学生の学びは,【精神科における患者・看護師関係の特徴の理解】【精神症状のある方への専門的な関わり】【自己の看護への内省】【看護師としての基本的な姿勢】【演習についての感想】などであった.</p><p>3)教員が実施するSST:学生の学びは,【悩みの普遍性の実感】【価値観の感じ方,対処方法や能力の普遍性への気づき】【自分一人の視野は実際は意外に狭いという気づき】【他者からの問いかけによる自分の感情・思考・認知に対する新たな気づき】【不明瞭な感情の陰に隠れた感情や思いの気づき】【カタルシスの体験】【グループの凝集性の実感】【グループの凝集性の発展への気づき】【グループの愛他的な行動による自尊心の向上】などであった.</p><p>(考察)</p><p> これまで幻聴動画を用いたバーチャルハルシネーションによる教育では,症状の体験的理解はできるが,看護の役割の理解までには至らない(川村ら,2010)と言われていた.しかし今回,紙上患者の看護過程展開による対象理解と患者役と看護学生役の両方を体験した.これにより,観念的な追体験ができ,幻聴が及ぼす思考や感情への影響だけでなく,具体的なコミュニケーションの方法や看護の役割の理解につながったと考えられる.また,うつ状態の患者の感情を実感したことで,ケアになる関わりについての理解が深まっていた.また学生は,看護学生役を通して自己開示の難しさと共に必要性を感じていた.今後はケアの場において,自己開示の目的や具体的な方法を教授していく必要がある.</p><p> そして,精神看護実践演習ではシナリオをシンプルなものして期待された役を引き受ける(role taker)のではなく,自分が描いた対象像になりきる(role player)ことを求めた.これにより役になりきることで,心的現実性を作り出し,患者と関わる際に生じる看護師の感情の揺らぎや看護師の専心,誠実な自己開示による信頼関係の形成について,学生が体験的に学ぶことができたと考えられる.</p><p> 学生は,SSTにより普段の対人関係における悩みへの対処方法を得るだけでなく,カタルシス,自尊心の向上といった癒しにもつながっていた.自己理解が深まるとともに,認知行動療法としてのSSTの効果を知る機会にもなっていた.</p><p> 以上のような学習効果はあったと考えるが,学内演習のみでは自己の関わりの有効性の評価や患者-看護師関係の発展につなげることは難しい.臨地実習と並行して行うことで実践力が身につくと考える.</p><p>(倫理規定)</p><p> 本研究は,本学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(2021-21).なお本研究において,開示すべき利益相反はない.</p>

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