ペルー、マチュピチュ遺跡の保存修復〔II〕 : 「太陽の神殿」の保存修復に関する調査と試験施工

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  • Conservation of Machu-Picchu Archaeological Site [II] : Investigation and Experimental Restoration Works of "Temple of the Sun"

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抄録

マチュピチュ遺跡はペルーのウルバンバ谷に沿う高い山の尾根(標高約2400m)に位置する、よく遺されたインカ帝国(15世紀中頃)の遺跡である。山裾からはその存在を確認できず、「空中都市」とも呼ばれる。1911年にアメリカの歴史学者ハイラム・ビンガムによって発見され、発掘調査が行われてその全貌を現し、現在はペルー政府文化庁によって保護、管理されている。遺跡には3mずつ上がる段々畑が40段あり、3000段の階段でつながっている。遺跡の面禎は約13km²で、約200の石造建造物遺構がある。熱帯山岳樹林帯の中央にあり、植物は多様性に富んでいる。その特色ゆえに1983年にユネスコの世界遺産(複合遺産)に登録された。いまだに多くの謎に包まれた遺跡でもあり、2007年に新・世界の七不思議の一つに選ばれている。マチュピチュ遺跡で最も重要なもののひとつである「太陽の神殿」遺構は、数ある石積建造物遺構の中でも石材(花岡岩)の劣化が特に顕著である。その原因は、発掘調査時に、生い茂っていた灌木、樹木を切り払い、遺構の内側で燃やしたので、その火熱で石材が劣化したためとされている。花岡岩は、その鉱物組成から火熱に弱く、亀裂が多数入った状態となっているのである。また、発掘された時点で、石積みの目地がずれて隙間ができており、崩れやすい状態にある。さらに、近年になって地衣類の繁殖が増大し、変色等外観上の問題が生じている。現地の人的、技術的体制ではこれらの問題を解決することは困難であるのが現状である。そこで、「太陽の神殿」石造遺構の保存、修復、整備を、ペルー国政府文化庁の要請と協力のもと、ペルー国政府文化庁の担当官、ならびに関係専門家と共同で事業を開始した。その概要は以下のとおりである。・石材の亀裂への合成樹脂の圧入、脆弱化した部分への合成樹脂の含浸、脱離部の金属ホゾ併用による合成樹脂による接合、隙間のあいた目地への粘士と石灰の混合物の充填による強化固定、薬剤による地衣類の殺除処理。・環境整備面からの保護対策(観光客立ち入り制限範囲、見学ルートの設定、禁止事項の明示等)についての、多方面からの検討、考察。本稿では、2012年夏に行った調査、研究結果のうち、特に石の保存修復、処置について報告する。

収録刊行物

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    Semawy Menu 4 55-67, 2013-03-04

    関西大学文化財保存修復研究拠点

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