三重県北部における近年の雨の降り方の変化と地下水涵養への影響に関する予察

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Preliminary Study on Recent Changes in Rainfall in Northern Mie Prefecture and its Impact on Groundwater Recharge

抄録

<p>1.はじめに 集中豪雨の発生頻度の変化をはじめとした,近年の降水現象の変化については,従来多くの研究が行われてきており,年を追うごとに発生頻度は増加の傾向であることが示されている。一方で,集中豪雨の発生頻度の変化に伴う地下水涵養への影響については,地下水涵養に関係する要因が数多く存在するため,具体的な影響について議論し切れていないのが実情である。 本発表では,地下水涵養の大本である降水に焦点を当て,三重県東員町およびいなべ市東部地域を対象に,2011年と2022年の地下水の酸素・水素安定同位体比と雨の降り方から,雨の降り方の変化が地下水涵養に及ぼす影響について予察的に検討を行った結果を示す。</p><p> 2.対象地域の概要 本研究の対象地域は,三重県北部(いなべ市東部,東員町),員弁川流域中流部左岸側の地域である。員弁川の近傍は低地となっており,北部には段丘地形が認められる。近年では,低地を中心に大規模商業施設や宅地化が進むとともに,稲作から大豆や小麦などへの転作や耕作放棄地における太陽光発電設備の増加が認められる。この地域の員弁川の近傍には,自治体の水道水源井が設置されており,この地域の地形地質的な特徴を考えたとき,水道水源井を流れる地下水は員弁川の伏流水と北部(員弁川左岸側の段丘地形)からもたらされてものであると推定できる。</p><p>3.研究方法  2022年9月に東員町水道水源井および対象地域における地下水,河川水,湧水の測水(水温,電気伝導度)と採水を行い,酸素・水素安定同位体の分析を行った。降水については,2011年~2012年に対象地域の数地点において採水,分析したものを用いるとともに,アメダス(北勢)のデータを使用した。地下水の水質については,2015年より対象地域内の数地点で水位,水温,電気伝導度の連続観測を行ったデータを使用した。これらの結果と2011年7月に行った測水および水質分析結果から比較し,夏季における地下水涵養起源や涵養機構の変化と雨の降り方の変化の関連について考察を行った。</p><p>4.結果と考察 2015年からの地下水の電気伝導度の変化は,徐々に上昇している傾向がみられた。降水や地下水位の変化の影響の程度や季節変化には地域的差異がみられたが,夏季の地下水位については大きな変化はみられなかったことから,この季節の地下水涵養量は維持されていることが示唆された。地下水の酸素・水素安定同位体比は,同位体組成でみたとき,2011年から2022年にかけて全体的に重くなる傾向がみられた。 北勢における雨の降り方をみると,2011年以降の年降水量はほとんど変化がみられない。1976年から2021年までの日降水量出現日数の変化をみると,10mm以下の出現日数は減少している一方,30mm以上の出現日数は増加傾向にあった。また,1994年以降の年降水量に対する10分間降水量についても増加傾向にあった。以上のことから,研究対象地域において,近年における短時間降水量は増加傾向にあることが認められた。  短時間降水の出現回数や降水量の増加は,この期間における水蒸気輸送システムの変化があったことを示唆しており,夏季の地下水の同位体組成にその影響が現れたと推定される。一方で,雨の降り方は変わったものの,夏季の地下水涵養量としては現状で影響が出ていないことが確認された。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390016128781639168
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_109
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ