関東平野における屋敷林の防風効果

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タイトル別名
  • The windbreak effect of woodlands around farmyards in the Kanto Plain

抄録

<p>1. はじめに</p><p>日本の平野部のうち風の強い地域では風よけとして屋敷林が利用されてきたが,農家の生活スタイルにおいて必ずしも必要としないものであり,所有者のなかには邪魔なものだという意識さえ出始めている(三浦 1995)。屋敷林は持ち主によって伐採される事例が増え,その数を減らしている。</p><p>かつて気候学では,強風対策として屋敷林が仕立てられたとみなし,「屋敷林の配置を分析し,集落周辺の卓越風を調査する」という研究が主に実施されていた。しかし,1990年代以降は「屋敷林が存在することで周辺の気象・気候に与える影響を調査する」という目的の研究が実施されるようになった。これらの研究のうち,屋敷林による防風効果を調査した先行研究では,観測された風速は最大で7m/s程度であった(橋本ほか, 2010,佐藤ほか, 2015,神品, 2023)。屋敷林の用途として防風を挙げるのであれば,生活に不便をきたす強さの風が吹走した際にその効果を発揮することが予想される。気象庁では,風速が10m/s以上15m/s未満の風を「やや強い風」と定義している。これを踏まえて,風速が10m/s程度の風が吹走した際の集落スケールでの風の挙動について気象観測を行う必要があるのではないか。</p><p>本研究では埼玉県上里町,本庄市の集村集落を事例にとる。風速が10m/s程度の強風が吹走した際の集落内での風の挙動について気象観測を行い,現在でも残る屋敷林や樹林地のもつ防風効果について明らかすることを試みた。</p><p>2. 調査方法</p><p>2023年1月24日から25日にかけて,寒気の流入に伴い冬型の気圧配置が強まった。日本海側では大雪となり,調査地付近は強風が吹走していた。24日0時から25日24時までに調査集落から最も近い気象庁観測所である伊勢崎アメダス観測所にて観測された風速を調べると,1月24日15時から20時,24日22時から25日0時,25日12時と13時に風力階級5(風速8.0m/s)以上の最大風速が観測された。</p><p>2023年1月24日19:30と25日13:00に埼玉県上里町の西金久保集落,24日18:00と25日11:30に埼玉県本庄市の都島集落のそれぞれ17地点において気温,風向風速を観測した。集落内の各観測地点は5分ごとにまわった。</p><p>3. 調査結果</p><p>上里町の西金久保集落の観測では,集落外にて最大で風力階級4~5の風を記録した。集落内の風は低減されており,なかでも集落全体を覆う大規模な屋敷林の風下側では風力階級が1にまで低減されている地点もみられた。</p><p>本庄市の都島集落の観測では,集落外にて最大で風力階級5~6の風を記録した。集落内の風は低減されていたが,屋敷林の風下側よりも,周囲を建物やブロック塀に囲まれた地点の方がより低減されていた。</p><p>上里町の西金久保集落と本庄市の都島集落の観測結果を比較すると,西金久保集落の方が風が低減されていた。西金久保集落の屋敷林は風上側で集落全体を覆っており,より高い防風効果を発揮したものと思われる。一方で都島集落の屋敷林は多くが伐採されている。屋敷林が伐採された集落内では,残存している集落よりも風が強まる可能性が示唆された。</p><p>文献</p><p>神品芳孝 2023. 関東平野北西部の集村集落における屋敷林の変化. 地学雑誌 132: 197-216.</p><p>佐藤布武・橋本剛・豊川尚・石井仁 2015. 季節風と洪水に備えた伝統集落の集落構成原理と屋敷森の防風効果. 日本生気象学会雑誌 52: 185-197.</p><p>橋本 剛, 鈴木 健次, 長野 和雄, 石井 仁, 兼子 朋也, 堀越 哲美 2010. 冬季における連続した屋敷森が集落気候形成に及ぼす影響. 日本建築学会環境系論文集 75: 907-913.</p><p>三浦修 1995. 二次植生の保護と保全―屋敷林景観を保全するために―. 季刊地理学 47: 216-220.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390016128781643264
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_125
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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