2022年7月の宮城県北部における大雨に伴う大崎平野の河川氾濫とその地形学的背景

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  • River flood in the Osaki Plain triggered by the heavy rain July 2022 in the northern part of the Miyagi Prefecture and its geomorphological background

抄録

<p>2022(令和4)年7月に宮城県北部で発生した大雨に伴い,大崎平野を流れる複数の小河川にて破堤を伴う洪水氾濫が発生した.本発表では,この氾濫の概要(橋本ほか,投稿準備中)を報告するともに,その発達史地形学的な背景についても予察的に議論する.</p><p>2022年7月15~17日にかけて,宮城県大崎市古川のアメダス観測所では最大で70 mm近い時間雨量の強雨が観測された.この大雨によって,大崎平野を流れる鳴瀬川水系・多田川支流の名蓋川,ならびに北上川水系・江合川支流の出来川で人工堤防の越水・破堤が発生し,河川流が堤内地に流入した.大崎平野は,鳴瀬川と江合川の土砂堆積によって形成された沖積低地からなり,丘陵によって盆地状に囲まれている.大崎平野を流れた鳴瀬川および江合川は,松島丘陵や旭山丘陵を貫通して松島湾および石巻平野へと流出する.氾濫が生じた名蓋川・出来川は,上記の2河川の小支川であり,大崎平野の蛇行原上を流れている.</p><p>名蓋川では右左岸の3ヶ所で破堤が発生し,多田川との合流点から約300 m上流の左岸で生じた破堤が最も規模が大きかった.原因として,多田川の水位上昇に伴うバックウォーター現象が発生して破堤が誘発された可能性が考えられる.出来川では,JR石巻線橋梁のすぐ上流の右岸で破堤が発生した.氾濫当時は河道内に植生が繁茂していたため,水流に対する抵抗が大きかったことが滞水と水位上昇,破堤をもたらした可能性がある.</p><p>出来川の破堤地点では,長さ約70 m以上のクレバススプレーが堤内地の水田を覆って形成された.クレバススプレー堆積物は,最大層厚約70 cmの砂礫であり,有機質泥の偽礫や瓦礫を含み,全体的にはやや級化していた.砂礫の最大礫径は約15 cmほどで,亜角礫も含まれていた.出来川の河床勾配や,形成された地形の規模や堆積物の層相などを踏まえると,このクレバススプレー堆積物のほとんどは上流から運搬された土砂ではなく,水流によって破壊・侵食された人工堤体(土嚢)や水田土壌が起源であると推測される.</p><p>出来川の破堤によって,戦後まで出来川下流に存在していた名鰭沼(なびれぬま)の旧水域とその周辺で浸水が生じた.現在では,名鰭沼の旧水域は干拓され,出来川は人工堤防によって名鰭沼干拓地を貫流して江合川に直接合流している.名鰭沼干拓地は周辺の氾濫平野よりも標高が約1~2 m低く,遊水地にされている.出来川の破堤地点の約1.5 km上流右岸には遊水地への越水堤が設置されており,今回の大雨でもこれが一定程度機能したものと考えられる.</p><p>干拓・土地改良前の名鰭沼は出来川の水流が流入することで溢れやすく,周辺への浸水被害が繰り返されてきた(加藤・工藤,1984など).名鰭沼は,江合川と鳴瀬川の自然堤防や氾濫平野,ならびに旭山丘陵によって囲まれた後背沼沢地ないし後背湖沼(鈴木,1998)であったと考えられる.縄文海進期には,名鰭沼を含め大崎平野東部は海域だったと考えられている(長谷,1967; Matsumoto, 1981)が,その後の江合川・鳴瀬川の土砂堆積によって形成された大崎平野の沖積低地の微地形とその形成年代に関しては不明な点も多い.大崎平野における洪水リスクを中~長期的な視点で評価し,持続可能な治水を実現するためには,江合川と鳴瀬川の両河川およびそれらの小支川も含めた,完新世以降における自然・人為両作用による河道変遷史・河川改修史の解明・整理が必要であろう.</p><p></p><p>謝辞:(株)復建技術コンサルタントには調査協力を頂いた.</p><p>文献: 長谷(1967)東北大地質学古生物研邦報,64,1-45; 橋本ほか(投稿準備中)自然災害科学; 加藤・工藤(1984)農業土木学会誌,52,585-592; Matsumoto (1981) Sci. rep. of Tohoku Univ. Ser.7 (Geography), 31, 155-171; 鈴木(1998)『建設技術者のための地形図読図入門第2巻―低地―』古今書院,354p.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390016128781651328
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_14
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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