写真からみた熱帯・温帯の焼畑技術と土地利用

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Technology and Land Use of Shifting Cultivation in the Tropics and Temperate Zone from the Photographs:
  • The 1960s and 1970s.
  • -1960~1970年代-

抄録

<p>1 はじめに 焼畑農耕(shifting cultivation)は,日本や世界の多様な農耕形態の一つであり人類の食糧獲得法である一方で,近年では熱帯林の消失の原因として循環型の持続的な資源利用として注目されてきた(佐藤1999, 2021; 池谷ほか2022; 池谷2023).また,これは「ある土地の現存植生を伐採・焼却等の方法を用いることによって整地し,作物栽培を短期間おこなった後,放棄し,自然の遷移によってその土地を回復させる休閑期間をへて再度利用する,循環的な農耕である」と定義される(福井1983).ただ,その農耕が「いつから始まりどのように展開して現在に至るのか」,日本や世界の焼畑農耕の全体像が明らかになっているわけではない.例えば,世界における焼畑の北限,高度限界,各地域における微細な分布などのテーマが挙げられる. 報告者は,これらの問題意識のもとに熊本県の五木村で撮影した佐々木高明氏の写真を整理して民博・データベース(焼畑の世界-佐々木高明のまなざし)として公開する一方で(佐々木1970; 池谷2021),現在も焼畑を維持しているペルーアマゾンの村での現地調査を行ってきた(池谷・増野2023).そこで本報告では,主として地理学者の撮影した焼畑の写真を整理することから写真資料を使用して上述の課題の一部に答えることをねらいとする.具体的には,佐々木高明,端信行,福井勝義ほか国立民族学博物館所蔵の写真資料を主として利用した. 2 結果と考察  熱帯・温帯の焼畑は,サバンナ(カメルーン中部)や熱帯林(インドネシア・ハルマヘラ島)や温帯林(九州・五木村)で自然環境は異なるが,伐採,火入れ,播種,除草(日本のソバ栽培ではない),収穫などの過程は共通している.また,樹木の伐採ではインドのパーリア,ザンビアのベンバ,日本の五木村にて枝打ちが行われたが,木から木に移動しての伐採は五木村を含む九州山地のみでみられた.さらに,焼畑地での耕作年数は,日本国内では3-5 年であるのに対して国外では1-2年がほとんどであった.国外では焼畑放棄後の森林資源の商品化が進むのに対して,国内では焼畑が山茶,山桑,楮・ミツマタ,カブのような商品生産とかかわっているのが特徴である. 以上のように本報告では,研究者の撮影した写真は,どこまで焼畑研究資料として有効であるのか否か,複数の調査地点の資料を組み合わせて地域情報にすることはできるのか否かを検討したが,その可能性についても展望する.なお,本研究は,科研費「20世紀中期以降における焼畑と熱帯林の変容メカニズムの地域間比較研究(20H00046,代表:佐藤廉也)」の成果の一部である. 参考文献  池谷和信 2021. 佐々木高明の見た焼畑ー五木村から人類史を構想する. 季刊民族学45(3): 4-13. 池谷和信 2023. 『図説 焼畑の民ー五木村と世界をつなぐ』千里文化財団. 池谷和信・増野高司2023. ペルーアマゾンにおける先住民の村の焼畑と休閑地利用. 日本地理学会発表要旨集103: 210. 池谷和信ほか 2022. 討論 焼畑は環境破壊かー池谷和信・米家泰作・佐藤廉也』焼畑を再考する① 新たな焼畑像を探る―佐々木高明の研究を超えて. 季刊民族学46(3): 105-107. 佐々木高明 1970. 『熱帯の焼畑-その文化地理学的比較研究-』古今書院. 佐藤廉也 1999. 熱帯地域における焼畑研究の展開-生態的側面と歴史的文脈の接合を求めて. 人文地理51(4): 47-67. 佐藤廉也 2021. 英語圏における焼畑研究の動向に関するノート:2014-2021年の論文を中心に. 待兼山論叢 日本学篇55: 1-18. 福井勝義 1983. 焼畑農耕の普遍性と進化-民俗生態学的視点から-. 大林太良編『山民と海人-非平地民の生活と伝承』235-274.小学館.</p>

収録刊行物

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390016128781663104
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_122
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ