JR西川口駅周辺におけるエスニック・タウンのCOVID-19による空間変容

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  • Spatial transformation due to COVID-19 in an ethnic town in the JR Nishi-Kawaguchi Station area

抄録

<p>近年,グローバル化の進行に伴い,日本国内では外国人人口の増加と国籍の多様化が進展し,外国人集住地区への集中傾向も報告されている.カプランは,エスニック集団の住居や企業の空間的集中がエスニック・ビジネスの発展において重要な要素として機能する可能性を論じた.その中で,当初,エスニックな資源に依存していたエスニック集団のうち,社会経済的地位の上昇を経験すると,空間的分散が生じるとも指摘している.このようにエスニック集団の経済活動により生み出される空間的パターンは,彼らを取り巻く環境により変化しうる.以上を踏まえると,2020年以降のCOVID-19感染拡大により,国際人口移動は大幅に制限されたほか,商業施設は営業時間や人数の制限を要請されて打撃を受けたことから,エスニック集団およびエスニック・タウンにも顕著な影響が及ぼされたと予想される.</p><p> 2022年末の日本における在留外国人人口は約308万人で,そのうち一都三県だけで約40%を占める.市区町村別では2020年6月末から2年間全国最多であった埼玉県川口市の西川口駅周辺地区(西川口1-3丁目,並木2-4丁目)には,エスニック・タウンが形成されている.当該地区は,1980年以前に韓国・朝鮮人,同年代後半以降に中国人が地場産業である鋳物工場に研修生として受け入れられたことから外国人人口の増加がみられた.また,当該地区は繁華街としても知られ,1990年代から違法性風俗店の出店が相次ぎ,2000年代前半には240を数えた.ところが,2004年に埼玉県警が「風俗環境浄化重点推進地区」に指定し,2006年に一斉摘発を完了させた.ただし,「風俗街」としての負のイメージは残存したために,新規入居者が現れず空きテナントが目立ち始めた.その後,2010年代半ばから中国人顧客を対象とした中国系飲食店や小売店が急増し,2010年代後半からはベトナム系店舗の出店もみられるようになった.このように当該地区は,かつての「風俗街」からエスニック・タウンに変貌したことが先行研究で言及されているが,2020年以降のCOVID-19感染拡大による影響については検 討の余地がある.</p><p> そこで,本研究では,西川口駅周辺地区を事例に,商業施設の立地および業種から,COVID-19によるエスニック・タウンの空間変容を明らかにする.そのために,2019年12月と2023年5月に実施した現地調査から得た結果を比較・検討し,先行研究や各種人口統計との関連性をもとに分析した.</p><p> 本研究から得た知見は以下の2点である.1点目は,当該地区におけるエスニック・ビジネスは,COVID-19の感染拡大にかかわらず量的に増加していることである.2023年5月現在,当該地区には,228軒のエスニック・ビジネスが確認され(図1),2019年12月(142軒)と比較すると大幅に増加した.エスニシティ別では中国系が最多であるが,韓国系,ベトナム系の増加も確認された.その立地は,西川口駅から半径200m以内に集中し,店舗の入替わりも散見された.2点目は,経営者が置かれた状況の差異によりCOVID-19の感染拡大を契機として経営方針における多様な質的変化がみられたことである.たとえば,中国系店舗のうち,同国人のみならず日本人,ベトナム人向けサービスの提供を開始したほか,当該地区を離れて東京都心へと店舗を移すケースもみられた.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390016128781687040
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_75
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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