医療ビッグデータが創薬研究に与えるインパクト

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タイトル別名
  • The impact of clinical big data on the drug development

抄録

<p>臨床応用されている医薬品の薬理作用は判明したごく一部のメカニズムだけが教科書等で紹介されていると考えた方が良い。事実、開発段階においてすべての受容体・酵素・チャネルに対する親和性を測定しているわけではなく、ヒトにおける安全性も限られた例数と時間の範囲で調べられているに過ぎない。それを裏付けるように市販後調査によって判明する有害事象は後を絶たない。実際、臨床データの中には医薬品の未知なる作用が山のように埋もれており、その中には有害事象メカニズムだけでなく、思わぬ有益性も潜んでいると考えられる。では、どのようにしてそれを知ることができるだろうか?それを臨床リアルワールドデータ(RWD)から探し当てようとした我々の研究から今回いくつかの成果を紹介する。</p><p>(1)抗不整脈薬アミオダロンの服用によって肺組織の慢性炎症から線維化に繋がる間質性肺障害が起こるが、抗トロンビン薬ダビガトランの併用がその発症率を抑制することをRWDから見いだした。薬理学的検討から本作用はPAR1-PDGFRα-MMP12経路を抑制することによることが分かった。</p><p>(2)糖尿病治療DPP4阻害薬によって自己免疫疾患である類天疱瘡の発症リスクが高まるが、欧米で多用される降圧薬リシノプリルの併用はそのリスクを低減させることをRWDから見いだした。薬理学的検討から本作用は免疫細胞への作用ではなく、ACE2-MasR経路の抑制を介して皮膚MMP9の発現抑制によって類天疱瘡の発症を抑制することが示された。</p><p>(3)フルオロキノロン抗菌薬の投与はそれが短期間であれ、低頻度ではあるが腱障害リスクを高める。従来、治療ガイドライン等では副腎皮質ステロイド併用は腱障害リスクを高めるとされているが、RWD解析からはデキサメタゾンの予防効果が見いだされた。興味あることにデキサメタゾンは高齢者コホートにおける腱障害の自然発症率も抑制した。薬理学的検討から、フルオロキノロンは活性酸素種の発生を伴うDNA損傷によって腱細胞を障害するが、デキサメタゾンはラジカル消去に寄与するグルタチオンペルオキシダーゼGPX3の発現上昇を介して短期間では腱組織の機能に対して有益に働くことを見いだした。</p>

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