バルプロ酸の胎内曝露は中枢性感作と痛覚感受性の増大を引き起こす
説明
<p>【目的】自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)は、社会性やコミュニケーションの障害、反復的な行動等を中核症状とする神経発達障害の一つであるが、感覚刺激に対する感受性の変化が認められる。特に非侵害性刺激による強い痛み(アロディニア)は、ASD 患者のQOLを大きく損なう要因であるが、その病態分子基盤は未解明である。本研究では、疼痛制御の観点からASDの病態メカニズムを明らかにすることを目的に、ASDモデル動物の痛覚感受性変化に関する行動薬理学的、また電気生理学的検討を行った。【方法】環境要因に基づくASDモデルとして広く応用されている妊娠期(12.5日目)への抗てんかん薬バルプロ酸投与マウスを用いた。離乳後、オスの産仔を実験に供した。対照群(コントロールマウス)には、妊娠12.5日目に生理食塩水を投与した。機械刺激性疼痛試験としてvon Freyテストを、熱刺激性疼痛試験としてホットプレートテストを行った。また、脊髄後角細胞からのin vivo細胞外記録法により、痛覚情報伝達に関する電気生理学的解析を行った。【結果・考察】胎生期バルプロ酸投与マウスは、コントロールマウスと比べて、4週齢そして8週齢においてともに、熱性痛覚過敏と機械的アロディニアを示し、またカプサイシンの後肢足底への皮下投与による疼痛反応も増強していた。本マウスの脊髄後角において、ionized calcium binding adapter molecule 1 (Iba1)陽性細胞の数や蛍光強度、細胞面積が増加しており、ミクログリアの活性化が示唆された。電気生理学的検討から、胎生期バルプロ酸投与マウスの脊髄後角表層において、コントロールマウスではみられない自発発火を示す細胞が観察され、またvon Freyフィラメント刺激により誘起される発火頻度がコントロールマウスに比べ有意に増加していた。【結論】以上の結果から、胎生期のバルプロ酸曝露は、マウスにおいて幼若期から持続的な痛覚感受性の異常を引き起こすこと、また疼痛行動と相関する脊髄(中枢神経)レベルでの神経細胞応答の変化(中枢性感作)が認められた。胎生期バルプロ酸投与マウスは、社会性行動の低下や認知機能障害も示しており、今後ミクログリアの活性化との関連性も含め、ASDでみられる痛覚感受性変化の分子メカニズムを明らかにしていきたい。</p>
収録刊行物
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- 日本臨床薬理学会学術総会抄録集
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日本臨床薬理学会学術総会抄録集 44 (0), 3-C-P-H5-, 2023
一般社団法人 日本臨床薬理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390017267762880896
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- ISSN
- 24365580
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可