上腕骨解剖頸軸回旋運動施行後リーチ動作を獲得した一症例

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  • O-056 骨関節・脊髄③

抄録

<p>【はじめに】 亜急性期での上腕骨近位端骨折術後の理学療法として骨折部の骨癒合が得られるまでは関節可動域(以下、ROM)運動が中心となる。沖田は関節の不動1週より拘縮が発生すると述べており、また肩関節拘縮を伴う高齢患者に対しては上腕骨解剖頸軸回旋を利用したROM運動の有用性が報告されている。今回、上腕骨近位端骨折術後固定により肩関節拘縮が生じ上肢挙上時の代償動作が著明に出現していた症例を担当した。本症例に対し、上腕骨解剖頸軸回旋を用いたROM運動を実施した事で、代償動作が改善しリーチ動作の獲得を認めた為、報告する。</p><p>【症例紹介】 80歳代女性で一人暮らし。入院前のADLはすべて自立していた。X日に自宅内で転倒し左上腕骨近位端骨折(Neer分類2part)と診断され、Ⅹ日+2日後に観血的骨接合術(MDMmodeプレート+ファイバーワイヤー)を施行された。術後は2週間の三角巾固定と2ヶ月の荷重制限でROM運動は制限なしと医師の指示のもと理学療法を開始。X日+14日後に肩関節のROM制限により頭上へのリーチ動作と洗髪動作が困難であった為、リハビリ継続目的で当院転院となる。</p><p>【理学療法評価】 初期評価、疼痛評価NRS安静時2/10、労作時2/10(肩関節前面術創部)関節可動域測定、左肩(自動)屈曲80°、外転60°、外旋-5°、内旋15°。筋力評価MMTでは強い荷重力が加わるため自動運動での確認を行い、3レベル以上と判断。整形外科的テスト(棘上筋テスト、棘下筋テスト、肩甲下筋テスト)陰性。動作分析と触診、上肢挙上運動開始時に肩甲帯挙上の先行、僧帽筋の過剰な収縮を認め、頸部屈曲と体幹伸展での代償動作を生じた。</p><p>【理学療法プログラム】 上腕骨解剖頸軸回旋を用いて、肩甲骨面挙上45°での上腕骨の内外旋運動を最終可動域まで実施し、ストレッチを行った。実施強度は先行研究を参考にし、最終可動域で最低6秒間の伸長力を加えKaltenbornのグレードⅡまで緩め3~4秒間の間隔で繰り返した。介入当初は臥位でのストレッチを行いその後、同一肢位での上肢挙上運動時に僧帽筋の過剰な収縮の軽減を確認した為、座位でのストレッチを行った。</p><p>【結果】 疼痛評価NRS、初期評価と大きな変わりはなかった。関節可動域測定、左肩(自動)X日+35日/屈曲100°、X日+41日/屈曲110°、X日+50日/屈曲120°、外転105°、外旋25°、内旋45°。初期評価と比べ屈曲40°、45°、外旋30°、内旋30度の改善を認めた。動作分析と触診、上肢挙上運動開始時の僧帽筋の筋スパズム軽減、頸部屈曲と体幹伸展の代償動作は改善した。しかし、自動屈曲90付近から過剰な収縮の残存を認めた。主訴である鍋をとるための頭上へのリーチ動作を獲得し退院となった。</p><p>【考察】 今回、上腕骨近位端骨折の術後患者を亜急性期で担当した。沖田はROM制限の治療戦略の第一段階として筋収縮を緩和させる必要があると述べている。また大槻は上腕骨解剖頸軸回旋を利用したROM運動は肩甲上腕関節のROMに直接影響を及ぼす関節包や靭帯、回旋に関与する筋群などを均等に伸張させる有効な手段であると述べている。本症例は2週間の三角巾固定により拘縮を生じていたが僧帽筋の筋スパズムから拘縮の責任病巣は臨床的な理学療法評価では特定困難であると考えた。また、単純なROM運動では筋収縮が先行してしまい拘縮を生じさせている関節周囲軟部組織にアプローチができないと考えた。そのため、上腕骨解剖頸軸回旋を利用したROM運動を行うことで拘縮の生理的制限の寄与が高い骨格筋と関節包へ均等にアプローチすることができ筋スパズムの軽減、可動域改善につながったと考える。</p><p>【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言を順守し、本人及びご家族へ本発表の趣旨を文書にて説明し同意を得た。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390017289897168512
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2023.0_56
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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