母娘問題としての父娘姦

DOI
  • 泉 啓
    岩手県立大学社会福祉学部

書誌事項

タイトル別名
  • Father-Daughter Incest as a Mother-Daughter Problem
  • On the Rise and Transformation of Psychoanalytic Discourses of Family Violence during the Mid-Twentieth Century
  • 二〇世紀中葉における精神分析的解釈の出現と変容を巡る考察

抄録

<p> 本稿の目的は、近親姦・性的虐待について「他者」の問題ではなく「われわれ」の身近な問題と説く言説の登場を、精神分析的諸文献のなかに辿ることで、従来のフェミニズム中心的な歴史説明に一定の修正を施すことである。一九七〇年代に性的虐待の「(再)発見」者となったフェミニストたちは、「隠蔽」的な知としてフロイトのエディプス・コンプレクス論を激しく批判した。ただし従来の二次研究では、フェミニストの主張に実践的に共鳴する余り、精神分析的近親姦論について単純化された説明が行われてきた。 本稿の検討対象となるのは、第一に、一九世紀後半から二〇世紀初頭にかけての児童救済運動における道徳主義的近親姦論、第二に、一九三〇年代における初期の精神分析的近親姦文献、第三に、一九五〇年代の女性批判的な文献、第四に新たに中流階級の父親加害者のパーソナリティ問題を主題化し始める一九六〇年代の精神分析的近親姦文献である。 以上の諸文献の解読作業を通して、児童への性犯罪が「われわれ」の身近で起きる問題であるというフェミニストが強調した論点が、一九七〇年代に初出のものでなく、精神分析的言説において既に用意されていたことが理解される。換言すれば、精神分析的近親姦論は、フェミニズム的解釈と別の語りを試みる者に訴求力のある、父親加害者の免責構造(母娘問題としての父娘姦)を含む解釈レパートリーとして依然現代性を有するのである。</p>

収録刊行物

  • 社会学研究

    社会学研究 107 (0), 101-123, 2022-12-26

    東北社会学研究会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390017843853699456
  • DOI
    10.50980/shakaigakukenkyu.107.0_101
  • ISSN
    24365688
    05597099
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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