薬害スモンの発症メカニズムの完全解明に向けて

  • 勝山 真人
    京都府立医科大学大学院 医学研究科 中央研究室RI部門

書誌事項

タイトル別名
  • Toward the complete understanding of the pathogenic mechanism of clioquinol-induced subacute myelo-optic neuropathy (SMON)

抄録

<p>キノホルム(クリオキノール)は20世紀半ばに整腸剤として多用されたが,亜急性脊髄視束神経症(スモン)という薬害を引き起こしたため,1970年に我が国では販売中止となった.スモンは猛烈な腹痛に引き続き,特有のしびれ感が足先から下肢全体,あるいは腹部・胸部にまで上行する神経疾患であり,下肢の痙縮や脱力をきたし,重症例では視力障害や失明,さらには脳幹障害による死亡例まで存在する.しかしキノホルムによるスモンの発症メカニズムは未だ解明されていない.これまで著者らはDNAチップを用いて培養神経芽細胞腫においてキノホルムにより発現が変動する遺伝子を網羅的に解析し,①キノホルムがDNA二本鎖切断によるATMの活性化と,それに伴う転写因子p53の活性化を引き起こすこと,②キノホルムが転写因子c-Fosの発現誘導を介して,痛み反応に関与する神経ペプチドの前駆体VGFの発現を誘導すること,③キノホルムが転写因子GATA-2およびGATA-3の発現抑制を介して,腸炎,視神経炎,神経因性疼痛への関与が報告されているインターロイキン-8(IL-8)の発現誘導を引き起こすこと,などを見出し報告してきた.さらにキノホルムが細胞内に亜鉛を流入させるとともに,銅シャペロンATOX1の酸化型への変換により銅の代謝障害を引き起こし,ドパミンβ水酸化酵素の成熟阻害を介してノルアドレナリンの生合成を阻害することを見出した.このようにキノホルムは複数の経路を介して神経毒性を発揮しているものと考えられる.</p>

収録刊行物

  • 日本薬理学雑誌

    日本薬理学雑誌 159 (2), 78-82, 2024-03-01

    公益社団法人 日本薬理学会

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