抗がん薬の心毒性リスク評価と今後の展望

書誌事項

タイトル別名
  • Cardiotoxicity risk assessment of anti-cancer drugs and future perspectives

抄録

<p>心毒性は抗がん薬の最も重篤な副作用の一つで,がんサバイバーのQOLを左右する要因となっている.抗がん薬による心毒性は,不整脈,心収縮障害,冠動脈疾患,高血圧症など多岐に渡るが,特に,心収縮障害(左心室駆出率の減少)は心不全につながる重篤な副作用である.従って,抗がん薬による心収縮障害リスクを予測することは非常に重要である.現在,ヒトiPS細胞由来心筋細胞(ヒトiPS心筋)は,ヒト心臓組織におけるイオンチャネルを発現していることから不整脈の発生リスク評価に利用されており,収縮障害や器質的毒性など他の心毒性に対しても実用化が期待される.抗がん薬による心収縮障害は慢性的な投薬によって発生すると考えられることから,我々はヒトiPS心筋の動きをイメージング解析することにより慢性曝露による収縮毒性を評価できる新たな手法を開発した.臨床試験で心不全が発生し開発が中止されたBMS-986094を陽性対照物質として用いて検討した結果,慢性曝露によりヒトiPS心筋の収縮速度や弛緩速度が濃度依存的に減少することを見出した.次に,機能的毒性や器質的毒性を示す抗がん薬であるドキソルビシンを検討したところ,収縮速度や弛緩速度が減少し,細胞障害が認められた.現在,作用点の異なる多数の抗がん薬の心毒性データを解析しており,臨床のリアルワールドデータと比較することにより本評価系の有用性や予測性を検証する予定である.本総説では,イメージングによるヒトiPS心筋の収縮評価法を概説し,抗がん薬の心毒性リスクに関する将来展望について紹介したい.</p>

収録刊行物

  • 日本薬理学雑誌

    日本薬理学雑誌 159 (2), 83-89, 2024-03-01

    公益社団法人 日本薬理学会

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