膠原病母体児の高サイトカイン血症と長期予後

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  • 高橋 尚人
    東京大学医学部附属病院小児・新生児集中治療部

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抄録

<p> 背景</p><p> われわれは以前,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体陽性母体から出生し,生後まもなく血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis; HLH)を発症し,ステロイド治療を長期にわたって要した症例を経験し報告した1)。その経過を図1に示す1)。児は胎児期に心拍数70bpm程度の房室ブロックを呈していたが,胎児発育は順調で在胎40週に正常経腟分娩で出生した。Apgarスコアは1分後,5分後ともに8点で,出生直後に大きな問題は認めなかったが,児は生後22時間頃に38.9℃の発熱,低血圧,肺高血圧,脾腫をきたした。血液検査でAST 1,278,ALT 121,Hb 10.2,血小板3万,フィブリノーゲン80,TG 498,フェリチン9,769,sIL-2R 3,230,NK活性7%で,貪食像検査未施行だったが,HLHに矛盾しないと考え,ヒドロコルチゾンによる治療を開始した。治療は効果を示し,その後,漸減し1カ月後に終了としたが,炎症反応が再度上昇し,IFNγ,MCP-1などの上昇も認めた。</p><p> その3年後に出生した同胞は房室ブロックやHLHの合併はなかったが,出生直後より新生児ループスを発症し,プレドニゾロンによる治療を行った2)。全身性自己免疫疾患合併の母体から出生した児でHLHの病態がみられることは当時報告がなく,われわれはこの兄弟例の経験から,全身性自己免疫疾患母体児の免疫学的病態に注目するようになった。われわれの症例報告の後,成人型Still病母体からの児でHLHの発症が報告されている3)。</p><p> 生殖医療の進歩により,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE),シェーグレン症候群,慢性関節リウマチなど全身性自己免疫疾患を合併した母体からの新生児が増えている。母体がSLEの場合3〜32%に新生児ループスがみられ,抗SS-A抗体陽性母体の1〜2%に先天性心ブロック(congenital heart block; CHB)がみられるとされ,早産も15〜50%,胎児発育不全(fetal growth restriction; FGR)は10〜30%と高率とされる4〜7)。一方,関節リウマチでは,むしろ妊娠中に母体の病勢が低下したり,児の発育も良くなったりするなど,胎児への影響は少ないとされている8)。いずれにしろ一般的には乳幼児期の児の状態から,全身性自己免疫疾患母体から出生した児において,臨床上の大きな問題はないと考えられる傾向がある。</p><p> しかし,近年,SLE母体から出生した児に幼児期・学童期の学習障害や発達障害の頻度が高いことが報告されている9〜12)。全身性自己免疫疾患母体児の長期予後については,遺伝的要因,早産,母体治療,児の養育環境など多くの因子がかかわることから,現状では不明の点が多い。また,そのような母体から出生した児の免疫学的病態についてはほとんど検討されてこなかった。</p>

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