竈神の神像からみるベトナム・フエ地域の特徴 -神像生産者への聞き取りを中心に-

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タイトル別名
  • Characteristics of Hue in Vietnam from the Perspective of the Statue of the Deity of the Kitchen Furnace : Focusing on interviews with the makers of statues

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抄録

ベトナム・フエ地域の竈神の祭壇で祀られる小型の土製の神像は、陰暦一二月二三日に家で竈神の儀礼をしたあと木の根本などに置かれ、再度見送り儀礼が行われる。この竈神の神像はフエ地域で創造されたものである。  本稿では、現在ディアリン村で神像の手工業生産を続ける六家族と伝統的窯業の村フォックティック村での二〇一二年から二〇二一年までの聞き取りを中心に「モノ」の視点から神像の生産の実態とその変遷を明らかにする。そして、小型の神像を祀ることについてフエ地域の人びとのくらしや歴史的背景から考察する。  現在、ディアリン村で生産されている神像は三種類:実際に調理に使用することもできる土製支脚オンタオ・ロン、その土製支脚をかたどった小型の神像オンタオ・クアン、竈神三柱をかたどった小型の神像はオンタオ・グオイである。土製支脚をかたどったオンタオ・クアンは、もともとフォックティック村で作られていたことが明らかになった。ディアリン村では六〇年ほど前に生産が始まり、そのなかでいくつかの改良がされ、また新たな神像オンタオ・グオイが作られた。フエ地域で広く小型の神像を祀るようになるのは比較的新しく一九八〇年代後半からであり、そこには台所の形態の変化が関わっている。  そして、小型の神像は祭壇で祀るだけではない重要な役割がある。かつて北部地域でも行われていた竈神の見送り儀礼は、実用品であった土製支脚から小型の神像に変えて続けられている。そこにはフエ地域の歴史的背景とそこにくらす人びとの竈神への願いが込められている。神体として祀られる神像を「モノ」の視点からみれば、土製支脚から小型の神像は、物理的な機能を伴うものから象徴的な機能への移行とみることができる。  生産者への聞き取りから神像の生産の厳しい現状や神像に対する思いなどについても述べていく。

収録刊行物

  • 常民文化研究

    常民文化研究 2 (2023) 35-63,ii, 2024-02-09

    神奈川大学日本常民文化研究所

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