対話の場と社会的学習:福島における1F地域塾の経験から

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  • 朱 鈺
    早稲田大学アジア太平洋研究科・博士課程
  • 松岡 俊二
    早稲田大学アジア太平洋研究科・教授

書誌事項

タイトル別名
  • The Space of Dialogue and Social Learning: Experiences of the 1F Community School in Fukushima
  • タイワ ノ バ ト シャカイテキ ガクシュウ : フクシマ ニ オケル 1F チイキジュク ノ ケイケン カラ

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抄録

<p>原子力発電所の廃炉では,地域住民,行政,事業者,原子力専門家などによる対話の場の形成が廃炉に伴う社会課題の解決につながると考えられている。しかし,2011年3月の福島第一原子力発電所(1F)事故を契機に廃炉が本格化した福島では,地域住民,国,東京電力,原子力専門家の間における社会的溝が深まり,対話が困難になっている。本研究は,こうした状況を念頭におきながら,信頼関係が損なわれた市民,行政,事業者,専門家がどのようにして社会的分断や対立を乗り越え,対話を行うことができるのかを明らかにする。</p><p>本研究は,熟議民主主義論に基づく対話の場に注目し,福島における1F地域塾という対話プロジェクトを対象とし,分断と対立に特徴付けられた社会の中でどのように対話を実現するかを考察する。考察から,これまで対話が困難であった地域住民,行政,東京電力,原子力専門家の間で,1F地域塾を通じて対話の前提となる相互尊重が醸成されたことを示す。</p><p>こうした相互尊重の醸成メカニズムについて,本研究は社会的学習という熟議の機能に注目した。従来の熟議民主主義論に比べ,本研究で提唱する社会的学習の概念は,相互理解だけでなく信頼形成を重視したものである。1F地域塾の経験から,相互理解と信頼形成を同時に促進する社会的学習を通じて相互尊重が醸成されるメカニズムを明らかにする。</p><p>1F廃炉をめぐる議論は,地域社会に広く浸透しているとは言えない。1F廃炉事業が50年,100年と続くことを考えると,より広い地域社会を巻き込んだ対話が重要となる。1F地域塾の事例は,市民,行政,事業者,原子力専門家が,社会的学習を通じ,意見の違いを前提とした相互尊重を育む可能性を示している。本研究は,厄介な社会課題に対する効果的な対話の場と学びの場(Learning Community)の形成の方法を示す。</p>

収録刊行物

  • アジア太平洋討究

    アジア太平洋討究 48 (0), 67-94, 2024-03-22

    早稲田大学アジア太平洋研究センター

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