早期に治療を開始した学童期の抗NMDA受容体脳炎患者への理学療法介入:症例報告

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抄録

<p>【はじめに、目的】</p> <p> 抗N-methyl-D-aspartic acid receptor脳炎(以下,抗NMDA受容体脳炎)は,2007年Dalmauらによって提唱された卵巣奇形腫に随伴する傍腫瘍性脳炎であり,自己免疫性脳炎の一つとされている .Titulaerらは集中治療室(以下,ICU)入室の必要性がないことと早期治療が予後良好因子と報告している.今回,ICUに入室した学童期の抗NMDA受容体脳炎症例を経験した.本報告では入院中の理学療法介入の経験について報告する. </p> <p>【方法】</p> <p> 症例は身体的に健康な学童期の10歳代女性.X日,意識障害や異常行動を伴う精神症状を発症し,症状発症3日目に抗NMDA受容体脳炎の診断となり入院.発症9日目より理学療法開始.理学療法開始時,Glasgow Coma Scale11点(以下,GCS), modified Ranking Scale5(以下,mRS),Barthel Index0点(以下,BI)であった. </p> <p>【結果】</p> <p> 入院同日に左卵巣腫瘍摘出術とステロイドパルスを実施.発症6日目から免疫療法を開始した.統合失調様症状や精神症状などが強く持続的鎮静と身体拘束を行っていたが,発症9日目にてんかん発作と持続的鎮静に伴う徐脈により全身状態の管理が難しくなりICU入室.発症16日目に人工呼吸器管理となった.発症25日目に人工呼吸器から離脱しICU退室,一般床転床となった.発症 104日目に自宅退院となり,発症120日目に復学した.鎮静剤は発症3日目から25日目まで使用した.二次治療として発症15日目 と43日目にシクロホスファミドを投与した. 理学療法としてICU入室中は二次的合併症予防目的に介入.ICU退室後は動作能力に応じて段階的に運動療法を実施した.ICU入室後は鎮静剤増量の影響でGCS3点,ICU退室時の発症25日目は GCS10点,mRS5,BI0点.発症34日目にGCS15点,mRS4,BI45点に 改善.発症45日目に無杖歩行自立しmRS3,発症59日目に mRS2,BI100点となり身体的な問題は概ね改善.その後,発症68日目にmRS1となった.なお,発症94日目に評価した児童向けウェクスラー式知能検査において合成得点が視空間指標78点,処理速度指標78点であり,視空間認知や処理速度の低下は残存していた. </p> <p>【考察】</p> <p> Dalmauらは抗NMDA受容体脳炎の治療は,腫瘍の早期摘出と免疫療法の併用が最も有効であると述べている.Titulaerらの報告では中央値で腫瘍摘出までの期間1か月,免疫療法開始までは21日と報告している.本症例は発症3日目に腫瘍摘出を行い,発症6日目から免疫療法を開始しており,早期治療が行われたと言える .また,Titulaerは予後良好因子の一つとしてICU入室の必要性のがないことをあげている.DuanらはmRSを用いた予後調査においてmRSは0-1(軽度),2-3(中等度),4-5(重度)として分類している.本症例はICU入室時mRS5であったが,退院時mRS1で良好な転機となった.これは,早期治療と二次治療を受けたことが要因と考えている. 今回、抗NMDA受容体脳炎患者の予後調査と比較しながら理学療法を実施することを経験した. 自験例のみではあるが機能的自立度をmRSで定期評価しながら段階的に介入することの必要性を学んだ. </p> <p>【倫理的配慮】</p> <p>本演題はヘルシンキ宣言に基づき倫理的配慮を行った.発表にあたり,患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し,十分に説明し症例家族から書面にて同意を得た.</p>

収録刊行物

  • 小児理学療法学

    小児理学療法学 2 (Supplement_1), 97-97, 2024-03-31

    一般社団法人 日本小児理学療法学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018198840555648
  • DOI
    10.60187/jjppt.2.supplement_1_97
  • ISSN
    27586456
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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